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「ごめんなさい。よしくんがそんなふうに思ってくれてるとは、知らなくて。
自分の誕生日なんてどうでもいいって思ってたから、気にも止めてなかったけど、そういうことじゃないですよね」
「んーん。俺もカッコつけてたからな」
「え?」
「カッコつけてさ、素直に言えないことの方が多いんだよ」
少しだけ開けた窓の隙間から、冷たい風が入ってくる。
「本当は私もです。誕生日とか関係なく、会えない日はいつも寂しい……」
車の走行音と風の音にかき消されそうになりながら、
ぽつりと呟いた。
「……Aの口からそういうの初めて聞けた気がする。
俺に気を使って、ずっと胸にとめておいてくれたんでしょ?」
等間隔に設置された道路照明に照らされる横顔は、なんだか儚い。
「もうさ、お互いカッコつけんのやめようぜ。
多分、一緒に住んだらカッコつけてらんなくなるから」
彼はまたいつもみたいに笑った。
「ダセェなって思うこともあるだろうし、嫌だなってことも見えてくると思うけど、俺はAに隠さないでいられるようになりたいの」
「よしくん……」
「逆に、こんだけ完璧なAがトチったりすんの見たいし。たとえ寝癖つけて白目むいてても可愛いもんは可愛い」
よしくんが優しいことはもう十分にわかった。
自分の全てをさらけ出して、
私の全てを受け入れようとしてくれているんだ。
でも、その例えの内容をちょっと想像してみると……すごく嫌だ。
「よしくん、それだけは耐えられません。寝室分けましょう!」
「えええ!?寝室一緒なのが、同棲の醍醐味じゃん?」
えっ、醍醐味……?
「ちょっ……と……何考えてるんですか……?」
「ええ?Aこそ何考えてた?」
「よしくんと同じことですよ」
彼は急に黙り、ラジオは途切れる。
もしかして、私、早速トチった?
「あーあっつい……!」
じわじわ吹き出す汗。急いでハンカチで押えた。
「アハハハ!俺のせいじゃないよ。夜が俺をそうさせるんだよ」
「もう……」
彼は夜のせいにしていますが、おそらく昼に同じ話をしてもこうなったと思います。
次の休憩所でドライバー交代。
走り始めてすぐ、助手席で眠りについた彼。よほど疲れていたのだろう。
彼は、目を覚ました時に自分の家だったことには落胆してたけど、
「やっぱAしかいないわ」と言い残してもう一度夢の中へと帰ってしまった。
こんな可愛い寝顔が毎日見られるのなら、やはり寝室は同じで。
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ヨ-リン(プロフ) - 櫂さん» 櫂さん、こちらもお楽しみいただけて幸いです。本当にありがとうございます。いつでも遊びにきてください! (2022年8月12日 7時) (レス) id: 3d151d95ac (このIDを非表示/違反報告)
櫂 - こちらの作品も読ませていただきました……本当に素敵な作品です。幸せな空間がすぐ想像出来るので、また読みにきたいと思います。完結までお疲れ様でした! (2022年8月6日 23時) (レス) id: 4f295eac92 (このIDを非表示/違反報告)
ヨ-リン(プロフ) - ひささん» ひささん、ありがとうございます!ぜひともよろしくお願いしますm(_ _)m (2021年10月19日 0時) (レス) id: 3d151d95ac (このIDを非表示/違反報告)
ひさ(プロフ) - 新しいお話、楽しみにしてます! (2021年10月18日 5時) (レス) @page44 id: d7d462c614 (このIDを非表示/違反報告)
ヨ-リン(プロフ) - ひささん» ひささん、いつもありがとうございます。そうですよね……やはり寂しさが募りますよね。私の物語がそのようにお役に立てていること、大変恐縮です……!本当に嬉しいです。完結までお付き合い頂けると幸いです。 (2021年10月5日 1時) (レス) id: 3d151d95ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヨーリン | 作成日時:2021年9月19日 1時