K ページ14
不意に腕を引っ張られて、俺の背中は重力に従って下に落ちた。そんな俺を藤ヶ谷は優しく受け止めてるかのように肩を支えてくれた。
気持ちが有り得ないほど高揚して心臓が暴れ始める。鼓動が速すぎて心臓発作で死んでしまいそうだ。
そんな事を悟られないようにすぐに彼から離れようとしたが、肩を少し抱き寄せられたのでつい身を預けてしまった。こんな機会、もう一生訪れないかもしれないと思うと身をゆだねる事しか選択肢が無かった。
視線を上に向けると、あの繊細な藤ヶ谷の顔がすぐ上にあってまた心臓が飛び跳ねた。窓から太陽の光が差し込んで彼の表情をライトアップしているかのように輝きを極める。
正直、目が離せない。彼は薄くない少し分厚くて綺麗な唇を開いて何かを話している。けれどその言葉は、俺の耳にかすかに届くだけであまり聞こえなかった。
ふいに言われた言葉だけは、俺の耳に届いて脳裏で反響した。
「だから、貸りるなら俺のにしろよ」
何度も何度もその言葉は脳裏で繰り返された。その言葉を呑み込めずに時が止まり、身体が硬直する。
やっとその言葉の意味を理解すると嬉しさがこみ上げてきて、顔がにやけそうになるのを必死で抑えた。
硬直している身体を押されて今度は、前に転びそうになる。そんな恥は晒したくないので足を踏ん張って体制を整えた。
恐る恐る彼の方を振り返り、顔を見つめ返す。藤ヶ谷はいつもの真顔だったが、しばらく見つめていると微笑んだような表情に変わった。
その彼の表情は、無理矢理笑ったかのように顔をひきつりながら口角を上げていた。そんな不器用な藤ヶ谷の笑顔に笑いそうになったのを必死に堪えていたら変な微笑み方をしてしまった。
それを隠すように先程のように満面な笑顔をする。ちゃんと愛嬌のある表情になっているだろうか。顔をひきつっていたら藤ヶ谷を笑ったのがバレそうで、不安がこみ上げる。
笑っているのバレてないかな。バレたら絶対、あの時のような言葉を投げかけるだろう。先程、藤ヶ谷の不器用な顔に笑いそうになった自分とは裏腹にその事が怖くなって身体を震わせた。
「じゃあ、有り難くお前の教科書貸りにくるわ!」
出来る限り出した言葉は、藤ヶ谷の表情を歪めさせてしまった。なんか大きな勘違いをさせてしまっている気がする。
もうこの無理矢理の笑顔に耐えきれなくなって、さっき言った別れの言葉を口にして彼の元を去った。教室に戻ると入り口を塞ぐように友達が壁にもたれかかって待っていた。
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作者名:supia | 作成日時:2021年10月19日 21時