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提供の準備ができ、金指が作間さんにコーヒーを手渡そうとしたその時 キッチンから店長が顔を覗かせた。
「盛り上がってんね。何の話？」
『え、っと……』
作間さんは視線をチケットと店長とで行ったり来たりさせて、
ここで誘うよう指令を飛ばしてくる。
私だってもちろんそうしたいけど、不思議なことに、言葉が詰まって出てこない。
店長に見つめられれば見つめられるほど、私は後退りしたくなる気持ちになった。
「なーに？教えてくんないの？いいけど。
そろそろ疲れたろ、賄い出来てるから2人とも休憩入りな」
なんともタイミングの悪い。
私たちが休憩に入るということは店長が接客にまわるということであり、これから混み始める時間だから閉店まで話をするタイミングはなくなるだろう。
店長は空いてる時には雑談に付き合ってくれるけれど、
閉店後はささっと帰りたいタイプなんだ。
いつもの感じからして、そこで誘いに行く勇気はない。
でも、とにかく今は無理だ。
「はーい」
そう応える金指の声を聞いて、私も『失礼します』と付け加えた。
「客の前で堂々と接客交代しますかね普通」
「お前は客じゃないようなもんじゃん。最近はどうなの？」
「また仕事の話ですか」
カウンターを挟んで、大人2人の会話が始まる。
お客さんとここまで仲良くなれるなんて、やっぱり店長のコミュ力は恐ろしいな。
ちゃんとしたお返しは後で考えるとして、私はとりあえず作間さんに小声でお礼を述べてから去ることにした。
『これ、ありがとうございました』
「はいよ〜」
早速コーヒーに口をつけ、手をひらひらさせながら私を見送る作間さん。
フランクな関係をお客さんと築けるのがこのカフェの素敵なところだよな、などと関係のないことを考えた。
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作者名：きたほ | 作成日時：2021年2月4日 17時
