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「もう1年経ったんじゃない?」
『まだです。…そろそろですけど』
「そろそろねえ。1年も一緒に働いてるなら何かあったっていいのに。
金指だって聞き飽きたでしょ」
隣でコーヒーを淹れる金指にも話を広げる。
「そうっすね」
『ちょっと!金指はともかく、作間さんはそっちから聞いてきてるじゃないですか!』
「それはねえ、やっぱりね、いつも頑張ってるAちゃんの恋の行方は大人が見届けなきゃ」
『ほっといてください』
『私はもう、今で満足してるんです』
この11ヶ月 かなりの頻度で会っているのに、
私はなにもアクションを起こせなかった。
起こせなかったっていうか。
起こすのが怖いんだ。
店長は私のことを好きじゃない。
だから、告白したって振られるわけで。
それでこの関係が崩れてしまうのだけは嫌だった。
「ほんとに?」
作間さんは目を丸くして固まる。
私は頷くしかない。
「そっか。せっかく良きチャンスをあげようと思ったんだけどな」
『良きチャンス…?』
「そう。これ」
作間さんは長財布からある紙切れを取り出した。
「水族館のペアチケット。
月末までなんだけど、ちょっと忙しくて使えそうになくて。明日休みでしょ?誘いなよ店長」
『ええっ!?』
「──と思ったんだけど、今のままでいいんだったらね、いらないよね。行ったらデートになっちゃうし」
『ちょっと待ってください!それは!頂戴します!
頂戴させていただきます!!』
店長と水族館。
自分からは絶対に誘えないからこそ、作間さんの提案はまさにチャンスだった。
『っていうかお金払います!払わせてください!』
「いいよいいよ、無駄になっちゃうところ活用してもらえるんだから」
「じゃ、どうぞ」と作間さんはテーブルにチケットを置く。
私は受け取るのと引き換えにレシートを差し出した。
「デート楽しんでね。あと、報告も忘れずに」
『デートじゃなくて、…社会科見学です!』
「いやまあなんだっていいよ」
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作者名:きたほ | 作成日時:2021年2月4日 17時