サマーバケーション (ページ16)

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16 side:Ryuto ページ16

「ぶぇええくち」

『汚っ』

「誰か噂してんのかな」

『そんな薄い格好してるからですよ』

窓から外を見下ろせば、焼けつくような日差しがコンクリートに照り返している。
蒸し暑そうにハンカチで扇いだり、頑張って木陰を歩いてきたものの耐えられず日傘を開く人々。

かわいそうに。
少々残酷ではあるが、それが俺の率直な感想だ。
毎日缶詰の悲しき月給取り。その缶詰の中が快適な点だけはありがたい。それを謳歌してやろうと、今日は久しぶりに社食に決めたのである。

我が社食は安くて健康に気を遣ったメニューが評判で、特に女性の集う場となっていた。並ぶのが億劫でいつもは外で済ませがちだが、部署ごとにカラーの違うその人間観察をするのも一興である。

「え、なんかお前の海老でかくね？ずりー」

"本日のおすすめ" とでかでかと貼り出されていたのを見て、我々の昼食はお揃いである。
目の前でボリュームたっぷり海老と夏野菜天丼にがっつくこの男は、クールビズとは名ばかりのお堅い営業部で大した地位があるわけでもないのに率先して暗黙の了解を破り続ける伝説のキャッチャー。
あ、ちなみに、我々の業務は野球とは全く関係がない。
中途入社してきてすぐ草野球チームを作ろうとあらゆる人間をスカウトして回った結果、こいつはキャッチャーだという認識だけが会社中に広まったのである。
結局、チーム結成まではいったんだっけ？
「さくちゃんは要領いいから絶対活躍できる」とかなんとか会って間もないのにわかったようなこと色々言われ、もちろん丁重にお断りしたので、その後の展開はよく知らない。
そういえば、橋本さんも巻き込まれていたような。

とにかく、そういうわけで髙橋さんは顔が広い。
エレベーターホールからこの席につくまでの間、一体何人に話しかけられたことだろう。笑みを作り続けた口角が、もう限界だと音を上げていた。