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「どしたの、そのピン」
『ええ！そんな！井上さんから触れてくれるなんて！
水族館に行ったんです！』
「そりゃそうだろうよ。だってペンギンだもん」
いつもの平日。
今日は夕方から授業だから、それまでのシフトだ。
結局、デートっていうかただ出掛けただけみたいな感じで水族館のペアチケットは消えてしまった。
家に帰ってから、もっと色々話しておけばよかったとか店長の写真撮っとけばよかったとか物凄く後悔した。
でもこのペンギンのクリップを見ると、ちょっと朗らかな気分になれる。
だから、毎朝メイクの時にも使って、働く時にもエプロンにつけるようにしていた。
『店長とお揃いなんです！店長と行ったから！まあ、金指とか茜さんともお揃いなんですけど…』
「へえ。デート？ようやく付き合ったの？」
『なんでですか、付き合いませんよ』
「そうなんだ。那須がいつも気にしてるからさ」
「ええ、僕すか！」
井上さんのすぐ後ろ、看板を睨みながら悩む那須さんが驚きの声を出す。
「そういえば落合さんライバル期は終わったの？」
『いつの話ですか、それ』
「いつの話してんだよ」
ほぼ同時。
井上さんと言葉が重なる。
どうやらこのビルの上の職場では、私の話題がよく出るらしい。
落合さん──茜さんは、たまにここに働きにきている、フリーのデザイナーさん。
店長とは高校の同級生で、最初はそりゃあ良い感じに見えたけど。
茜さんと仲良くなってみてわかった。店長とはそういう関係じゃないって。
同い年だけど、姉弟みたいな、そういう相性の良さだ。
「なんだ。てっきり、ドキドキ！恋の三角関係！って感じかと思ったのに」
「なんだそれ！あはは！」
どうやら井上さんは那須さんがツボらしい。
こうして一挙手一投足に笑っているのが常だった。
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作者名：きたほ | 作成日時：2021年2月4日 17時
