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カーテンをなびかせて舞い込んでくる風が少し冷たい。沈みかけの夕日がピアノを真っ直ぐに照らし、ちらちらと光っている。

「…ここでしか弾く機会なくて。でもピアノだけだとイメージが膨らみづらいんすよね。曲って色んな音色が重なって魅力が増すと思うんで」

矢花くんの音楽に対する思いを聞きながら、ちゃんと聞きながら、何か役に立てないかなというようなことを少し考えていた。

この短い時間で私は彼の音楽に十分惹き付けられた。出来ることなら応援したいと思った。


ここで、良い考えが浮かんだ。我が家には伯父から譲ってもらったキーボードがある。なんでも私が幼稚園生の頃に伯父の家に遊びに行った際、キーボードに興味を示したとかで伯父さんが俺は弾けないから持っていっていいよと、そういう流れだったらしい。けれどそれはその時だけの幼い好奇心で、その後ピアノを習うこともなくキーボードは押し入れで今も静かに眠っている。


『ねえ、キーボードって、色々な音出せるよね?』

「え?はい」

『家にあるんだけど、いる?古いけど。家族誰も弾けないから、どうしようか困ってたんだよね』

矢花くんは、今まで見たことないくらい目をきらきらさせて。

「是非借りたいです!」

『いや、むしろあげたいんだよ』

「それは申し訳ないです。少し借りてみて、もし持っておきたくなったら買い取ります」

一応家族に聞いてみるね、と返す。真面目すぎる考えだ。なんだか矢花くんをよく表してるなあと思った。

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作者名:きたほ | 作成日時:2020年8月18日 2時

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