薄明に旋律 (ページ18)

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『お邪魔します』
「どうぞ」

狭くてすいません、と矢花くんは玄関の靴を足で退けつつ器用に脱いで上がる。
勉強机の隣、低めのテーブルの上だけが綺麗に何もない。キーボードを置くと、座るとぴったりの高さだ。スタンドがないのを心配していたけれど、これなら大丈夫そうだった。

「少し休んでいきますか」
『ありがとう』

お茶いれますね、とキッチンへ。正直疲れていたのでありがたい。久しぶりにこんな重いものを運んだから。一体何冊借りたらこんなに重くなるんだろう？
あまりジロジロしないよう意識しながらも、勉強机の上にも本が何冊かあるのが目に入る。

『あ、』

積み重なった一番上は、気になっていた本だった。
うちの担任は数学科なのにホームルームで毎回おすすめの本を語る読書バカで、これは先週おすすめされていたもの。

『これ面白かった？』
「まだ途中で。先読んでもいいですよ」
『いや、読み終わったら感想聞かせて』

はい、と矢花くんが答えたのと同時に、どうでもいいといってしまえばどうでもいいことを思った。そう、私は矢花くんの連絡先を知らない。普通ならメッセージで感想を聞くところだ。

『…連絡先、知らないよね』
「そうですね」

お茶を持ってきてくれながら、他意はないという感じだ。
え、さりげなく躱されてる？

「ああ、スマホ持ってなくて」