薄明に旋律 (ページ11)

今日:26 hit、昨日:0 hit、合計:3,820 hit

5 ページ11

あちこちの家からぼんやりとした明かりと共に美味しそうな匂いが届く。こういう時って何を話せばいいんだろう。今まで後輩、しかも男の子と帰る機会なんてなかった。
こつ、こつ、と控えめなリズムを刻む足下をなんとなく意識してしまう。目を横に向けると、矢花くんは気まずそうな感じはなく、考え事でもしているのか、右によったり左によったり。

無理に話す必要はないのか、と気づく。少し距離が近づいては、やがて離れる。肩の力が抜けると、緩やかに変わる私たちの距離がなんだかおかしく感じた。

「なんか楽しそうっすね」

薄笑いをいつの間に見られていた。急に恥ずかしく感じ、話題を変えて誤魔化しにかかる。

『っていうか、こっちって珍しくない？』
「え？」
『家』

さっきの分かれ道でほとんどの生徒は右へ行く。私がよく一緒に帰るメンバーは私以外が全員そっち側に家があるので、いつもこの道は一人で帰っていた。ここからはだんだん街灯もまばらになってきて、裏山が近いので少し怖い。

「ああ。俺の家はさっきの道向こうですけど」

じゃあ、なぜそっちに行かなかったのだろう。思い浮かぶより先に彼が答える。