空から降るラブソング

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配属先での仕事は、初日から想像以上に慌ただしい。



自己紹介もそこそこ、ミーティングを済ませ、玉森さんのチーフマネージャー田崎さんに就いて日々の仕事を学ぶ。



玉森さんは今までモデルのお仕事が中心だったけれど、これから3ヶ月間ほど映画の撮影が始まる。



合わせてテレビなどのメディア露出も徐々に増やしていくそうで、これまで通りモデルのお仕事の時に主に就く田崎さんと、映画やテレビ方面の仕事を担当するもう一人のマネージャー森川さんの間に入って、双方のスケジュールの管理調整をするのが私の役目。



加えて、玉森さんの送迎や身の回りのお世話まで……新人は、いろんな雑用をこなしながら仕事を覚えていく、、、という感じ。







「今日から玉森さんの担当になりました、一之瀬Aです。よろしくお願いします」



「ん、よろしくー」



控室ですでにヘアメイクさんに髪のセットをしてもらってる玉森さんが、手元のスマホから視線を上げてチラリと私を見る。



まだ眠そうな表情。



また視線をスマホに戻す。



何かの動画を見てるらしく、時々笑いを堪えきれずにニヤニヤしてる。



「ね、新人ちゃん。そこのカバン取ってくれない？」



「あ、はい」



近くにあったハイブランドのバッグを取って、玉森さんに渡す。



「ありがとー」



スマホを置いて、カバンから台本らしきものを取り出すと欠伸をしながらパラパラと見てる。



「あ、新人ちゃん。そのペットボトルこっちにおいてくれる？」



「はい」



………名前はまだ、覚えてもらえないみたい。







今日は、主要キャストのスチール撮影……宣伝用の写真撮影。



映画は、恋も勉強も就活もなかなかうまくいかず、さえない大学生活を送る主人公が、ふとしたきっかけで昔の仲間たちとバンドを組んでプロデビューを目指す青春ストーリー。



玉森さんの役は、主人公とヒロインに次ぐ三番手の重要なポジション。






なんとなく、、、どこかポラリスを思い起こすような内容。



玉森さんの担当は、キーボードじゃなくギターだけど。



でもこの役を演じることが決まって、きっとギターをたくさん練習したんだろう。



さっきカバンを手渡す時………きれいな白い手の、その指先に、、、「ギターダコ」が出来ていた。






撮影のスタッフさんに呼ばれスタジオに入ると、さっきの眠そうだった玉森さんの表情がキリっと引き締まって、スイッチが入ったのがわかった。



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