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「……なぁ、A。お前死ぬんか……？」
おや、同居人。どうかしたのか？
珍しいね、君がそんなに苦しそうな顔をして瞳に水の膜を張るなんて前世ぶりじゃないかなぁ。
そんなことを考えながらひゅうひゅうと荒い息を繰り返す。
身体からは耐えずどくどくと生暖かく鉄臭い何かが溢れ地面に水溜りを作っていく。猫の身体でも思いっきりぶつかれば人1人事故から救うことが出来るのだな、と場違いなことをぼんやりと考えてしまった。
私は時期に死ぬ、しかしながらそれに対する恐怖は１mmも無い。
生きとし生けるもの皆死ぬ、私は幾度もそれを経験したのだ。
何を恐れることがあろうか、心配するな同居人よ。
またしばらくすれば君の元に戻るのだから。
だがいつもと違う感覚が自身を襲う。いつもはもっとただ眠りにつくだけのような感覚なのに今日ばかりは
違った。
そうしてあることを思い出す。
そうか、これで9度目か。
どうやらこの身体で繰り返してきた人生もとうとう終わりを迎えるようであった。
思い出した。
君のそんな顔を見るのは9度目、いや人間だった頃、私が初めてあなたと過ごした人生も合わせれば10度目。
もうそんなに見てしまったのか。
けれど君を庇ってこの命を10度散らしたとて後悔は1度たりともしたことは無かった。
ただ、もう見飽きてしまったな。
最後の力を振り絞って私の方に伸ばされた手に擦り寄った。私から失われる体温とは逆にその手はどこまでも暖かく愛おしかった。
胸がじんわりと暖かく、ぽっかりと空いていた隙間が幸福によって満たされてゆく。
泣くな、同居人よ。10度も君の隣にいたのだ、次に記憶がなくとも、猫でも人間でもなかったとしても必ず君の元に戻ってこよう。
いや、私がそうしたいのだ。
私の体に宿る感情。猫の身にも抱けたか、そんなことを思いながら抗えぬ眠気に身を任せる。
10度目でようやく気づけたこの感情、次は君に伝えられたらなんて──。
そんな夢を見ながら瞳の奥に君を閉じ込めてお別れの言葉を告げた。
「にゃあ。」
返事はまた来世にでも聞かせておくれ。
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