【d!】紫煙に口づけ【shp】 (ページ5)

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「A、飯置いとくで」

ようやく脳が酸素を取り込み正常に動き始めたのか、いつも通りの声でそう言われリビングへと足を運んだ。

定位置に置かれた皿にはいつもと変わらぬご飯が入っており、同居人はソファーの定位置に腰掛けていた。机の上に置かれていたマグカップの中に注がれたコーヒーがこの猫舌男によって飲まれるのはまだまだ先になることだろう。

ひょっろこいのだからもっと飯を食えと思うのだが、同居人はいつの時代もいくつになっても少食であった。

幸いにも倒れたところを見たことは無いが、それでもやはり成人男性が食べる量としては少なすぎる。

どうしたものかと思うものの猫である私にはどうしてやることも出来ない。それに少しだなんとも言えぬ感情を抱いてしまうが結局のところ、私はしがない猫でしかないのだ。

行き場の無い感情をどうすることも出来ぬままににゃおと声を漏らせば「ん。なんや飯ならそこにってもう食べとるやないか。」と言われる。

違うわ馬鹿者。

伸びてきた手をするりと避け、テーブルに飛び移りちょうど置かれていたリモコンをキュートなおててで押した。そうすれば情報番組がやっており、画面には大きな文字で熱愛！？なんて書かれている。

「くだらんなぁ。」

私からリモコンを奪おうとする手をしっぽで払えば、渋々手が離れていった。
そうだ、それでいいのだ。黙って見ていたまえ。

「なんや、猫のくせにこんなことに興味にあるんか？」

興味が無いといえば嘘になる。ただ、それは決して己が抱きたいという意味ではなく純粋な興味でしかない。

身を焦がし、時には命さえもを投げ打ってしまえるほど大きな感情は猫の身には抱ききれない。だからこそ気になった、いつの時代でも理解出来ぬその感情を。