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先ほどまで分け合っていた体温が突然離れていき、夜風が私の体を包み込む。夜の冷たさと寂しさが、胸を劈いた。
彼が持っている煙草は、もう指のギリギリのところまで赤く燃えてる。もう一度、肩が触れ合う距離に近づき、答えの続きを待ってみたけれど、どれだけ横顔を眺めても、彼は口を開こうとしない。
「何もしないが答えなの？」
「ちゃうけど」
「じゃあなに」
「わからんかったん？」
彼が最後の一息を大きく吸い込んだ瞬間、もう一度視界が白濁した。ゆっくりと流れていた時が止まる。持っていた煙草を灰皿に押しつけ、空いた両手で優しく頬を包み込むと、予兆も無く、流れるように下唇に噛み付かれていた。
彼がくれたキスが、私と同じ意味を持つのなら。
「あかん俺が寒い」
煙と一緒にキスの余韻すらも払い落とすように、服を何度か手で叩き、いつも通り部屋の中へと帰っていった。
彼が去っていったベランダには、吐き出された煙が名残惜しそうに浮かんでいた。これからも在り続ける世界とは裏腹に、煙たちはあと数秒したら、消えて無くなってしまう。
既に薄くなった煙に、わざと頭を通してみた。
「もしも今日、この世の全てが終わってしまったらどうする？」
彼と同じ場所に行って、同じものを食べて、最後は彼の腕の中で迎えたい。
彼がくれる最後のキスを、人生で１番の思い出にしたい。
振り返ると、彼はもう既にソファで携帯電話をいじっていた。行かなくちゃ、彼の隣が私の居場所なのだから。いつも散々「直して」と言っているサンダルを脱ぎ捨てて、大きな窓を開けた。
最後に、今にも見えなくなりそうな、紫煙に口づけをして。
Fin.
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