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「寒いやろ」
そう聞かれた時から、肌寒さを感じていた。どうも私は受け取った映像や言葉に簡単に左右されてしまうらしい。「寒い」を口実に、隣に立っている彼に近寄り、肩と腕がくっつく距離まで近づいてみた。
「やっぱ寒いんやろ」
「ちょっとだけね」
「少し離れていたのが寂しくなったから」
また、心の中の言葉は素直に出てきてくれない。でもきっと、建前の言葉を並べても、ショッピは言葉の裏側を読み取っている。
「ふーん」と鼻で笑いながら、煙草を持っていない方の手で、私の肩をぐっと引き寄せた。触れていた肩が食い込むようにぶつかり合う。気温とは反比例しながら、彼と触れている部分だけが、徐々に熱を帯びていく。
残り半分ほどの煙草を口に運び、含んだ煙を少しこちらにかかるように吹きかけた。視界が一気に白濁する。
まるで彼が吐き出した紫煙に口づけをしているかのようで、悪戯っ子のような表情を浮かべている彼に、思わず微笑みかけてしまった。
「世界滅亡の話やろ」
「え？」
「もう忘れたん？」
「いや、掘り返すの珍しいなと思って」
「何するかなって考えてたら思い浮かんだわ」
私のことじゃなくっていい。彼の好きなことをしてほしい。
どんな面白いことを思い浮かんだんだろう。友達とゲームをするとか、バイクを乗り回すとか、ひたすら音ゲーをするとか。彼の好きなものを挙げると、どれを選ぶんだろうとわくわくしてしまう。
「なんもせんわ」
私より少し高い位置にある口から、なんとも無慈悲な回答が届いた。喉まで出てきた「つまんな」という言葉を飲み込んで、訝しげに見上げる。さも当たり前のことを言ったかのような表情を浮かべながら、もう一度目が合った。
鬱陶しいほどに綺麗な星空、冷たい夜風、もう少しでなくなる煙草、揺れる煙、そしてそれらを照らす月、全てが私の感情とミスマッチだった。
「なんもってわけじゃないな」
煙が揺れる。
普段は味わうことのない苦味が唇に広がった。
いくら眉を顰めても離れることのない、触れるだけの、それは長いキスをした。
どれくらい時間が経っただろう、微動だにせずに触れ合っている唇が、ようやく苦味に慣れてきた頃に、名残惜しそうに離れていく。
「灰危ないわ」
何事もなかったかのように、換気扇の室外機の上に置かれた灰皿に向かって体を離した。
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