【d!】紫煙に口づけ【shp】 (ページ36)

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紫煙に口づけページ36

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「もしも今日、この世の全てが終わってしまったらどうする？」

彼が望んだ「世界が滅亡する映画」を見た後に、ふと頭を過ぎった。

この質問に大した意味は無い。
ただ、もし今、映画の中ようなことが起こったら。ニュース番組のアナウンサーが「今日世界が滅亡します」なんて言い出したら。突然怒号が鳴り響いて、何も言われなくても「この世は終わる」と察してしまえるような状況になったら。

彼は誰を選んで、何をするんだろう。
何もかも失うその瞬間に、彼は誰の事を思うんだろう。

窓ガラス越しに、ベランダで行き交う車を眺めながら煙草を吸っている彼の背中を見つめた。
世界が終わるその瞬間に、「Aと居る」なんて言ってくれたら、ただそれだけでこの世に悔いはない。でも、きっと彼はそんな話をしても乗ってすらこないだろう。

ただひたすら、彼の華奢な後ろ姿と夜空に浮かんでいく煙を眺めていると、ようやく煙草を吸い終えた彼がくるりとこちらを向いた。いつもと変わらない表情を浮かべて、身体にまとわりついた煙を払い落としてから部屋の中に戻ってくる。

そんなことしなくたって、それがショッピの匂いなのに。

「ねえ、もし今日この世の全てが終わってしまったらって考えたこと、ある？」

「いやないなあ」

「そうゆうの信じなさそうだもんね」

「大体嘘やん」

「もしもの話だよ」

大きな窓を片手で開けて帰ってきた彼に、思い立った言葉を直ぐ投げかけてみた。今日もまた、サンダルは自分が脱いだままの方向で置かれている。いつも直してって言ってるのに。

この男に限って、まともな回答が返ってくるわけが無い。というか、この質問の仕方では私が望む答えは聞けない。彼が「Aと一緒に居るかな」とか、「Aと好きなことして過ごすかな」とか、そんなセリフを言うタイプじゃない事は重々承知している。

裏を返せば、キザな言葉を並べたりしない、正直な感情をぶつけてくる所が彼をずっと好きでいる理由なのかもしれいない。

「映画に影響されすぎやろ」

「影響されないのなんて、この世にショッピくらいじゃない」

「言うやん」

「今日はこれ考えてたら眠れそうだわ」

床に座り、彼が煙草を少し離れたテーブルに置きに行く姿を目で追いかける。
いつもの場所に放り投げられた紺色の箱が、中身の少なさを主張するかのように草臥れていた。