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俺らの同棲生活は順調だった。
個室がある広い部屋を無事に借りることができて、家賃光熱費家事も全て2人で折半することが決まった。
お互いの自由時間が無くなるのではないか、という問題は杞憂に終わり、適度にプライバシーを守りつつ穏やかに家での時間を過ごすことができた。
少なくとも、俺は。
「しょっぴ、ねえってば」
「なんや、今忙しいねん」
夜も更けて編集が佳境に差し掛かった頃、Aが俺の自室に入ってきた。俺はモニターから目を離さずにAの静かな声に応えた。投稿日まではまだまだ余裕があるが、どうしても今夜か明日のうちに終わらせておきたい。
「別れよ、しょっぴ」
「……は？」
いや……は？？
Aの告白は青天の霹靂だった。俺は編集画面を保存するのも忘れて、Aの声のする方を勢いよく振り向く。ゆったりとした部屋着姿のAは、拗ねた顔をして俺のゲーミングチェアの横に仁王立ちしていた。
……あかん、Aの顔見ても決定的な心当たりが全くない。
「……なんでいきなりそうなるん？」
「いきなりじゃない。もう4年近く一緒に住んでるのに、全然構ってくれないじゃん」
もう飽きたかなって。
AはTシャツの裾を握り締め、不安げに揺れる声で呟いた。思いの外可愛らしいが、退っ引きならない理由に俺は無意識に止めていた息を細く吐き出した。
「おれは別に付き合いたての頃と接し方変えてへんけど」
平日はお互いやるべき仕事をこなして、週末は一緒に過ごす時間を必ず取る。そのルーティンは付き合い始めの頃から変わっていないはずだ。
俺はというと、デートの後にも同じ家に帰ることができるというだけで底知れぬ幸せを感じていた。でも、Aにとっては、共有する時間が増えるとそうもいかないのかもしれない。
「本当に？」
まるで俺に非があるとでも言いたげな口ぶりに、俺は思わずカチンときてしまった。
「本当にって何やねん。今の今まで喧嘩せずにちゃんと円満に付き合ってたやろ」
「今の状態でちゃんと付き合ってるって言えるの？」
「おれと同棲までしとって、よう言うわ」
売り言葉に買い言葉でキツく当たってしまった。慌てて同棲に持ち込んだのは俺やけど、と心の中で弁明を付け加える。
「じゃあ最後にデートしたの、いつか覚えてる？」
俺はブルーライトに照らされたAの顔を見上げた。俺の愛情を試すような質問を投げつけたAは、いつしか両目に溢れんばかりの涙を溜めていた。
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