浮かぶ紫煙の往く先は ページ27
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『はい、半分こ』
深夜1時過ぎのコンビニの灯りはどこか寂しげだ。中途半端な田舎だからか、店の大きさに比べて遥かに有り余っている駐車場の車止めブロックの上に腰掛け、余り物の肉まんを半分こする。時間が時間だからか、むちむちと皮を引き裂いて肉ダネを割っても湯気なんてちっとも上がらない。敷き紙に張り付いたべちょべちょとした皮が煩わしい。
「ぬるいっすね」
『仕方ない。廃棄寸前だったんでしょ』
明日は、雪が降るらしい。
確かに普段よりも風は痛い程冷たく、肉まんの湯気よりはっきりとした白い息が上がる。車も殆ど通らない道路を眺めながら、ただただ互いが咀嚼する音と聞き飽きた店内BGMだけが耳に残る。
「向こうには近所にコンビニあるんです？」
『そりゃね。徒歩5分以内に3件』
「あーあ。買い食い癖、一生治らないっすね」
『うるさいなぁ。コンビニの食べ物は買い食いするのが1番美味しくなるように出来てるんだよ』
「なんやそれ」
私は明日、東京に引っ越す。
漸く決まった就職先の勤務地が東京本社から始まるらしく、物件探しやアパートの解約手続きを済ませた後も、実感は湧かなかった。今私の部屋には積み重なったダンボールと、飾りなんて一切ない簡素なベッドだけ。それでもまだ、明日もここに居ると思っていた。
彼に未練なんて大仰なものは抱えていない。私たちはただのサークルの先輩と後輩で、ただこうやってたまにコンビニで買い食いをする仲が謎に3年も続いただけだ。
「今度から誰に奢って貰おっかな」
『本当にいい性格してるよね』
「あざす」
『皮肉だわ』
勿論、彼を男として全く意識しなかった訳では無い。綺麗な顔をしてるし、肝が座っていて頭も良い。無愛想に見えて意外とくしゃくしゃに笑う所とか、何度だって心を掴まれかけたことはあった。
それでも私は今の関係が気に入っていたから。別段彼のことを考えていた訳でもないし、互いに恋人が居た時期だってあった。けど、結局ショッピくんとの買い食いが1番楽しかったかもしれない。
『遊び来てよ。住所送るから』
「えー……遠いわぁ」
『東京来る用事あった時とか連絡してくれれば、退勤後に一緒に飲めるしさ』
「そもそも用事がねえっす」
『それはそうだけどさ……』
その気持ちを自覚しているからか、何故か私の口から出てくる言葉達はすべて、彼と離れ難いような口振りばかりだ。なんだ、私って自分で思ってる以上にこの人と離れるの嫌なんだなぁ。どうしようもないのに。
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