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冬の足音が迫る頃、彼女が初めて寄り道をしたいと言った。
断る理由もなく快諾すると、行き先は神社だった。
どうやら、大学受験のために参拝したかったらしい。
「…合格祈願の御守り、おそろいでほしいな」
参拝を終え、社務所の前を通り過ぎようとした時、彼女がぽつりと呟いた。
「ええやん、買おか」と答え、巫女服の女性の前に並ぶ授与品を眺めたが、目的のものは見当たらない。
聞けば合格祈願の御守りは十二月にならないと出回らないらしい。
肩を落とす彼女を尻目に、俺は健康祈願の御守りを二体手に取り、うち一体を彼女の手のひらに置いた。
俺は鞄から合格と印字されたしゃもじのストラップを取り出し、驚いているであろう彼女から顔を逸らした。
「合格祈願はAがくれたコレで間に合うてるし、健康祈願で十分やろ。御守り持ちすぎても神様が喧嘩するらしいで」
ストラップは、夏休み明けに彼女からもらったものだった。
クソ先輩と広島に行った際のお土産だとか。
それを後生大事に持ち歩いている時点で俺の気持ちなんて筒抜けもいいところだが、彼女には気付かれていないらしい。
恋人という肩書きがフリである以上、彼女にはそのまま知らずにいて欲しかった。
帰り道、身を切るような北風に震える彼女の手を、自分のポケットにしまった。
決して体温の高くない互いの手が、ゆるやかに温かくなっていく。
それが、無性に切なかった。
俺は、人目がなくても彼女の手を離せなくなっていた。
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年が明け、冬休みも終わり、彼女と再会した。
互いの連絡先すら知らない俺達は、学校からの帰り道、わずかな時間も惜しむように口を動かした。
しかし、溜まりに溜まった話題はなかなか尽きず、ついに彼女の家の前に着いてしまった。
途端に閉口し、沈黙が二人の間を寒々しく流れる。
このまま居っても彼女が風邪を引いてしまう。
そう思い離そうとした手を、彼女がきゅっと握った。
驚く俺を見上げ、彼女は言った。
「受験が終わったら…連絡先、教えてほしい…です…」
視線が下がるにつれて、語尾も小さくなっていく。
かたかたと震える手は、きっと寒さのせいだけじゃない。
そう思い込むことにした俺は、「ええよ、約束な」そっと小指を絡ませた。
．
共通テストの後、ややして自由登校になった。
学校がなければ彼女と会うことはない。
そんな俺達は、二つの御守りと一つの約束だけが繋ぎとめている、不確かな関係だった。
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