夕闇を探して迷子になった ページ17
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｢プロポーズされちゃった｣
それを君に告げるまでにどれだけの大切な残り時間を削っただろう。自宅の冷蔵庫に掛けているばつ印を連ねたカレンダーは一枚捲ってしまった。新たな月の半分ほどをばつ印で埋めて、今日。そうして明日には真っ赤なハートマークがこれみよがしに描かれていて。
それは、わたしと君のタイムリミットを意味していた。
｢そうなんや｣
気重げな瞼で紫瞳を隠して彼は薄らと笑った。床に敷いた布団に寝転がったままベランダに頭を出して、彼が口から吐いた白煙は秋晴れにふわり、揺らぎ昇って冷たい風に攫われてゆく。
大したことではないとでもいうように、ショッピは何ひとつ普段と変わらない声色で返事をくれる。たった、一言。しまいには欠伸のひとつも見せてくれた。
わたしがこの話を切り出すのにどれだけの躊躇いと葛藤があったかなんてきっと考えちゃいないのだろう。そりゃ、そうか。彼にとっても、わたしにとっても、この関係は本来あってはいけないものなのだから。
｢そうなの。ねえ、ショッピ。だから、｣
｢おん｣
｢……だ、から、｣
あと、もうひとつ。もうひとつ告げて、わたしたちの時間を終わりにするの。いつでも違う道を進めるように、と頼りなく指先だけを結びあっていたこの関係にようやく蹴りをつけるのだ。⎯⎯⎯そう、覚悟して、縫い合わされたように動かなかった口を無理に開いたのに。
｢……しょっぴ、｣
｢聞いてますよ、ちゃんと｣
終わりにしよう。 そんな一言が吐き出せなかった。
彼はわたしが何を伝えようとしているのかなんてきっと分かっているだろう。それなのに耳を傾けてくれるのは、彼もこの関係に区切りをつけたいと思っていたからに違いない。
そうと分かればいよいよ何も言いたくなくなった。わたしだけがこんなにも胸を抉られる思いでいるなんて悔しくって、悔しくって。
｢ばか。……しょっぴの、ばか｣
｢そんなことが言いんじゃないでしょう｣
｢っ、｣
すました顔で笑わないで。年下の癖して余裕ぶって、ずるい、ずるい。彼の頬をぺちん、と力なく叩けば、くすくすとまた軽い笑い声。
｢……ね、Aさん。ツーリング行きません？｣
叩いた手をやんわり掴んで、彼が言う。あんまりにも突飛な提案に目を瞬かせたけれど、最後の思い出にツーリングなんてショッピらしいな、とわたしは首を縦に振った。
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