【d!】紫煙に口づけ【shp】 (ページ16)

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救ったのは私ではない。彼が、彼の魅力が、彼を救い生かしたのだ。

「俺が、花びらっすか？笑えますね」
「聞いといてその反応はないでしょ。ショッピだけでなく生きてるすべての命が花びらよ」

　んー…と彼が頭に手を当て、なにかを吐き出すように乱暴に髪の毛を乱す。

「これで満足がいった？」
「………結局、あんたが言いたいことは、花びらのように命が儚いってことですか」
「…まあ、そうだね。」
「正直、がっかりしました」

　まさかそこまではっきり言われるとも思わず、笑みを崩す。最後ぐらい優しく飼い主を見送ればいいのに、噛み付いてくるなんてひどい犬だ。

「あんたが俺に与えた命は、花弁なんて生優しいもんじゃない。…あんたは、俺に、……ひどく根付いて離さない呪いの種を植え込んだんや」
「なによ、それ」
「命は種やろ。与えて与えられて。芽吹かせるのもそのまま枯らすのも自分自身。俺はあんたに植えられた種のせいでこんなに醜く成長してしまった。国も、家族も、友人も、どうだっていいぐらいに、一人の飼い主以外はすべて殺せるぐらいに、熱烈な感情を持ってしまったんや。それを、あんたは花びらやって…？」

　今にも泣き出しそうな彼が、愛おしくて

「花びらなんてぬるいもんやない。
　あの時、…俺を生かした時、あんたも俺を、俺もあんたを、同じ目で見とったやろ。綺麗事をあんたが言うな。俺とおんなじ、獣を飼っとるあんたが」

　私と同じ目で見てくる彼が、ひどく哀れで、

「なぁ、A。言わせてくれ。俺な、あんたのこと恨んどる。恨んで憎くて、でも、それでも、あんたと共に生きたいって思うんや。
　国も、家族も、友人も、全部いらん。あんただけ。あんただけを、」

　生かしたい、そう思えるのは愛やろ。

　気付けば私は彼の鼓動に包まれていた。どく、どくり、と力強く聞こえる心臓は、たしかに私が生かしたもの。私だって同じだった。彼を彼だけを、この世界で唯一生かしてやりたいとそう思っていたから。

　もう空は青い。彼の色は消え入った。
　宵闇の中、二人獣のように交わり溺れた、淡くて脆い夢はもう終わりだ。私達はこの青空の下で手を取り、歩き出さなければならない。
　だって、それが、私たちにとっての生きる意味なのだから。

───今宵紫煙の夢にて溺る

「…なら、これからも朝起きてショッピがそばに居る当たり前をわたしにちょうだい」
「それぐらいなら、いくらでも」

───目が覚めたならあなたの、隣で。