今日で最期 (ページ3)

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帰省ページ3

「おかえり」

「……ただいま」

ニコニコの笑顔の両親。一人娘が2年ぶりに帰ってきて、本当に嬉しそう。

「さ、荷物置いてきな」

「私の部屋ってまだ残ってるんだ」

「当たり前じゃない。あの日のままよ」

「…あの日？」

「そう、Aがうちを出て東京に行った日」

「あぁ……」

ドキリとしてしまった。
"あの日"と言われて思い浮かべるのはいつも3年前の明日のこと。私にとってその日は地獄みたいな日だ。

ただただ心が苦しくなる。締め付けられて、私は何度も悪夢を見た。じっとりと汗をかき、うなされ、後味最悪の夢を見る。

「…Aもそろそろ切り替えなさい」

「え？」

黙りこくった私を見兼ねて、お母さんは少し語気を強めてそう言った。

「いつまで引きずるつもりなの？ …忘れろだなんて言わないわ。けど、そんなふうに思われるのは彼も望んでいないはずよ。Aが前を見て、新しいことに向かって行くことを望んでいるはずよ。」

「誰が言ったのそれ。私はうらたからそんなこと1度も聞いたことない。」

吐き捨てるようにそう言い、私は2階の自分の部屋へと駆け込んだ。
今にも涙が溢れてしまいそうだった。

だってそんなの分かってる。
私だってズルズルこんなに引きずりたくない。
忘れられるなら忘れてしまいたい。なかったことにしてしまいたいのに。
もう、思い出したくないのに。

真っ赤に燃える夕日。風も吹かないじっとりとした空気。汗ばみ何もかもが私に纏わりついているよう。

なのに私は何も残せなかった。ただ、奪われるのを、じっと見つめ、速さを増す鼓動と、震える指先に戸惑っていた。

風鈴がちりりと鳴った。

控えめな音は、人見知りの彼を思い出させた。