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「……親父さん体調崩しちゃって、休業するって言われちゃったんですよね」
岸くんは寂しそうに続けた。
「めちゃくちゃお世話になったんで、せめて店の掃除くらいは、たまに来てやってあげようかなって」
ぷらぷらと、預かったと思われる古びた鍵を目の前で揺らす。
「……こうやってあなたを連れ込むのに使っちゃってますけど」
「……」
「……こないだの蕎麦屋で会った時も言いましたけど、俺あなたのこと、ちょっとだけ気にしていました」
「……ライブ行かなくなったこと、ですか?」
「はい。俺冷たくしたかなって…」
いくらファン想いの岸くんだからって、
たった一人のファンのこと、覚えて、気にかけるだなんて思わない。
「……だからこんな形で呼び出してくれたんですか?」
「ファンミーティングみたいな感じです。
あなたなら大丈夫って気持ちがありましたし、」
「大丈夫って…」
「だってまだ誰にも、バイトしてたこと、知られたりしてないんで」
「……だって、言えるわけないです」
憧れの岸くんと、会えたこと。
それはファンだった私にとっては、一生の思い出で、宝物だから。
今日のこともそう。
岸くんにとっては、ただ単純に自分が傷つけたファンのこと、驚かせて、喜ばせるくらいのつもりだったんだろうけど、
それが私にとっては、涙を流すほど嬉しいことだなんて、岸くんは想像出来ていたのかな。
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さくら - とても良い作品でした。自然と物語の最後には涙があふれてきました。突然ですが、続編の方を見たく、検索してみましたが見つからず、どのようにしたら見られますか? (2018年12月15日 16時) (レス) id: 0ab5784288 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:踊れる人大好き芸人 | 作成日時:2018年7月20日 10時