声優・浅雛の記録手帳 2冊目【男主】 (ページ20)

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もう一人の兄ページ20

「『乾杯！』」

グラスを重ね、最初の一口目を味わう

羽多野「いやー、久しぶりだね。Aくんとご飯食べるの」

『はい！渉兄さんとご飯食べることをモチベーションに今月は頑張ってました！』

羽多野「そう言ってもらえるのすごく嬉しいな～」

雑談を交えながら、注文した数々の料理に箸をつける

羽多野「最近どう？忙しいでしょ」

『まー、調整してるので大丈夫ですよ』

羽多野「無理しないでね。何かあったらすぐ頼ってくれていいからね」

『ほんと、渉兄さんには頭が上がらないな』

苦笑し、グラスに入っていたウーロン茶を飲みほした

『……あの時、傍にいてくれたのが渉兄さんでよかったっていつも思うんです』

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デビュー作『誰にも届かぬ星』の公開後、アニメや邦画の吹き替えなど多くの仕事が浅雛に舞い込んできた

時間ができたら台本を捲り、ひたすら書き込み声に出す

それを休むことなく延々と続けていた

神谷「A」

『……』

神谷「……翡翠」

『……呼んだ？赤司』

そんな生活を続けていくうちに、浅雛は演じた役に入り込みすぎてしまうことが多くなった

厄介なのは、当の本人がそれに気づいていないことだった

神谷「あぁ。最近忙しいんだろ？」

『そんなことないよ。何、俺の心配してくれるなんて……赤司、変なものでも食べたー？』

神谷「食べないよ。少し休んだら帰るんだぞ」

『はーいっ』

軽快な返事をして、浅雛は手元の台本に視線を戻した

神谷「A、まだ抜けないな」

羽多野「そうですね」

黒子のバスケの収録後、楽屋に残っていた神谷と羽多野は浅雛の様子を気にしていた

特に神谷は浅雛と同じ現場になることが多かったため、役に入った浅雛の対処には慣れていた

神谷「俺、次の現場行かなくちゃいけないけど……もし時間あったらAのこと見ててやってくれない？」

羽多野「はい。そのつもりでしたから」

神谷「そっか。何かあったら連絡して」

「よろしく」と声を掛けると、神谷は楽屋を出て行った