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電話を耳にあてたまま、何も言葉を発せずにただそこに呆然とするだけだった。

『おーい。高村ー。
 ………Aちゃん。』

少しの沈黙が流れた後に名前を急に呼ばれ、はっと我に返った。

…御幸さんはずるい。このタイミングで名前を呼ぶなんて。

「…すみません。びっくりしすぎて。」
『さっき東条とはふつうに話してたじゃん。』

廊下を歩いている音が電話越しからも聞こえる。
制服が擦り合う音も。

『うしろ、向いて』

その言葉をいとも簡単に信じてしまった自分が憎い。

歩いていたはずの音が消えた。制服が擦れる音も。床を鳴らす靴の音も。何も聞こえなくなった。

「…みつけた。」

音のなくなった電話から、何かを探そうとしたとき。
声が電話とは反対の方向から聞こえた。

そこには御幸さんがいた。
春市のスマートフォンを指さしている。

ガラケーで十分だしな、とスマホは持っていないらしい。

何かの連絡が取れれば十分とも話す。
特に困っていないらしい。

「知らない番号から電話かかってきたらさすがに嫌だろ。」

御幸さんなりにいろいろ考えた結果、春市にかけてもらうことにしたらしい。

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作者名:ゆめみるきのこ | 作成日時:2023年8月24日 14時

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