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試合が終わって誰にも会わないように帰ろうとしたとき、伊佐敷先輩に連行された。
連れていかれたところは球場の外だった。
1軍に入っているんだ、といつか話した金丸の姿も見える。
こちらに気が付いた春市が近づいてくる。
「Aちゃんの姿グラウンドからも見えてたよ。
来てくれてありがとう!」
また顔を赤らめながら笑顔で春市はいう。
「御幸先輩ならあっちのほうにいるから行ってみるといいよ」
小声で伝えると、春市は足早に戻っていった。
この前とは、違う。
御幸さんと、話すようにもなった。
こういうときこそ、春市に近くにいてほしかったのに、もう春市は戻ってしまって遠かった。
「御幸さん。お疲れさまでした。」
「おーお疲れ。
もう関わらないんじゃなかった?」
もちろんそのつもりで最初はいた。
でもやっぱり魅せられてしまう。魅入ってしまう。
それに。
「…好きになったらどうするんですか…」
呟いてから急に恥ずかしくなって、帽子を目深に被る。
頬は赤面していた。春市と倉持先輩がうかがうように視線を送ったのが分かった。
ほかに誰もこの状況に気が付いていないのに、見ているわけでもないのに、帽子から顔を上げられない。
ぐっと近付いたその人は、グラウンドの土の匂いと、汗と制汗剤の混ざったような匂いがした。
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作者名:ゆめみるきのこ | 作成日時:2023年8月19日 14時