とおくてちかい。 (ページ18)

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泣き崩れてしまって、その場から動けなかった。

泣かれたまま帰すのはしのびないけど、誰も家を知らない。じゃあどうするか。と目配せをしただけの会議を終えると、そのまま誰かの寮の一室に行くことになった。

そこは沢村と倉持先輩ともう一人三年生の先輩の部屋なんだそうだ。

あまり広い部屋ではなかったのに、堂々と部屋の真ん中で寝てしまって申し訳ないことをした。

体を起こすと、この部屋の主である倉持先輩と春市の姿があった。

「春市、倉持先輩。迷惑ばかり、すみません。」

姿勢を正すと、二人に向かってそう話した。
明らかに困惑した表情を浮かべている。

「野球のこと一つ一つがわからないのに、いつまでも東条くんたちに甘えて試合観戦に行ったり、どさくさに紛れて練習を見ていたりしてもいいのかな…って。」
「Aちゃん野球を分かろうと本読んでたじゃん。迷惑なんてかかってないよ。」

春市の前髪がすこし揺れて大きな瞳が見えた。
そうして春市はわたしを真っすぐにみていうと、頬にそっと手を置いた。

「…分かんないよ。春市。」

そっと下を向いて言った言葉はあまりにも小さくて、きっと春市にも届いていないだろう。