検索窓
今日:33 hit、昨日:0 hit、合計:1,634 hit

#17 ページ17


ただの憧れで、遠い存在だった御幸さんが、今はこんなにも近くにいる。それなのにやっぱり動けない。

こんなにも近い存在なのに、手も声も届かない。

東条くんから貰った帽子を目深に被り、流れてきそうになる涙を隠すように、少しずつ後ずさった。するとまたはじめて練習を見た後のような優しい声がした。

「まだ逃げんのか」

そういってきたのは倉持先輩で。

「あいつは今野球にしか興味ねーし、野球が出来ればそれでいいってやつだけどよ。人からの好意はないがしろにはしないぜ。お前はまだあいつに向き合ってすらいねーじゃねぇか。」

倉持先輩の優しいながらも厳しい言葉にはっと気が付かされた。

「倉持先輩。
 ありがとうございます。もう少しだけ…頑張ってみます。」

一度心に決めたことはやってみせる。

わたしが憧れた人。
かっこいいだけじゃなくて、姿勢にも生き方にもすべてがかっこよくて心を一瞬にして奪われた人。

「……御幸…一也…さん」

勇気を出して名前は呼べた。
声は小さかったかもしれないけれど、ちゃんと言えた。

「地元のしがない本屋でたまたま見つけて気が付いたら買っていました。……それで、御幸さんに一瞬にして心を奪われました。
 …憧れて、ごめんなさいっ…好きになって、ごめんっなさいっ…」

本当はこれが言いたかった言葉じゃないのに。
最後までちゃんと届いていたのかな。
それでも御幸さんは泣き崩れてしまうわたしの言葉を最後まで聞いてくれた。

#18→←#16



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (2 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
6人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ゆめみるきのこ | 作成日時:2023年8月19日 14時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。