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ただの憧れで、遠い存在だった御幸さんが、今はこんなにも近くにいる。それなのにやっぱり動けない。
こんなにも近い存在なのに、手も声も届かない。
東条くんから貰った帽子を目深に被り、流れてきそうになる涙を隠すように、少しずつ後ずさった。するとまたはじめて練習を見た後のような優しい声がした。
「まだ逃げんのか」
そういってきたのは倉持先輩で。
「あいつは今野球にしか興味ねーし、野球が出来ればそれでいいってやつだけどよ。人からの好意はないがしろにはしないぜ。お前はまだあいつに向き合ってすらいねーじゃねぇか。」
倉持先輩の優しいながらも厳しい言葉にはっと気が付かされた。
「倉持先輩。
ありがとうございます。もう少しだけ…頑張ってみます。」
一度心に決めたことはやってみせる。
わたしが憧れた人。
かっこいいだけじゃなくて、姿勢にも生き方にもすべてがかっこよくて心を一瞬にして奪われた人。
「……御幸…一也…さん」
勇気を出して名前は呼べた。
声は小さかったかもしれないけれど、ちゃんと言えた。
「地元のしがない本屋でたまたま見つけて気が付いたら買っていました。……それで、御幸さんに一瞬にして心を奪われました。
…憧れて、ごめんなさいっ…好きになって、ごめんっなさいっ…」
本当はこれが言いたかった言葉じゃないのに。
最後までちゃんと届いていたのかな。
それでも御幸さんは泣き崩れてしまうわたしの言葉を最後まで聞いてくれた。
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作者名:ゆめみるきのこ | 作成日時:2023年8月19日 14時