おとぎの国に堕とされて【短編集】

アンハッピーバレンタインがお好きでしょ？＊花宮真 ページ5

バレンタインデー当日に
本命のあの人にチョコが渡せる
囁かな幸せ
「俺はカカオ100％のチョコレートしか
食わねえって言ってんだろ、バァカ」

うわ
痛恨のミス…

『だってしょうがないでしょ？
カカオ99％しか無かったんだもん
それに他の子よりはマシじゃない？』

「だってじゃねぇ
食わねぇもんは食わねぇ
しかもお前が作ったんだろ？
ふはっンなもん、食えるかっての
…―――バァカ」

嘲笑うように舌を出す悪童

『じゃあいいもん！
花宮には今年甘ったるいチョコだけなんだからね！』

「は？ちょっ、待てA！」



思わず体育館から逃げ出した

校内の空き教室に隠れる

腹いせに花宮にあげるはずだった
綺麗にラッピングされた袋から
チョコレートを取り出す

ひと粒口に含む

『うげ…苦すぎ…こんなの好きとか
趣味悪いでしょ

ｯとに、あんな奴好きとか趣味悪すぎｯ…
ｳｯ……ｸﾞｽｯ…ﾋｯｸ』

今日、バレンタインの力を借りて
チョコレート渡してそれで
“好き”って言うつもりだったのに


＊ アンハッピーバレンタインがお好きでしょ？ ＊


溢れる涙は苦さのせいにして
拭わない



「何泣いてんだよバァカ」


頭上から突然降ってきた声に困惑する

だって貴方がここに居る筈ない

「ふはっブサイクな顔が益々ブサイクだぞ
って、お前俺のチョコ食ってんのかよ！」

頭上から降ってきた声の主は
私の真正面に回って

綺麗な指で私の涙を
拭ってくれる

『な…んで、居るの…追いかけてこないでよぉ…こんな…こんなの…』

「勝手に勘違いしたのはお前だ、バァカ
俺の言葉最後まで聞いてたか？」

これこそ傷口に岩塩かな…

『お前が作ったのなんて食えるかバァカ、
でしょ？』

「そのあとだよ


“なんて言うかバァカ”


っつたんだよ」


背けた顔
髪が邪魔であんまり見えないけど少し赤い？

期待していいのかな？

『ねぇ、花宮…
好きです、付き合ってください』

なんて陳腐でテンプレートな言葉
それでもこれが精一杯


「ふはっ
んなの知ってたっつうの」


『ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないよ
私、バカだもん』

「…チッ

いいか、一度しか言わないからな



A、お前が好きだ」


＊ ハッピーバレンタインが好きなの ＊


女の子が夢見るのは好きな人との
甘い甘い恋

私と貴方が見るのは
カカオ100％の苦い恋
でも貴方とならそれすらも甘い恋




皆様の今日が後悔のないものになりましたように

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