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前までは無だった。
家族の供養という作業。そこに何か感情を乗せてしまったら溢れて歯止めが利かなくなるのがわかっていたから。
囚われて、進めなくなる。この何年か歯を食いしばって作ってきたものが全部崩れる。信五君と侯君が起き上がらせてくれたはずのところに、また倒れる羽目になる。
だから、無。
なのに私は今、隠しようがないほど揺れている。
足元がぐらついている感覚がしてとっさに侯君の袖を掴むと、侯君はチラッと私を見て肩に寄りかからせたうえギュッと手を握ってくれた。不自然なほど腕を絡めて私はそれを握り返す。
横「ちょっと寝れば。まだ着かんし」
だいじょうぶ、と言われた気がした。
安心しておでこを擦りつけると侯君はまた怪訝な顔をしたけど、何も言わず目線を手元の小説に戻して、器用に片手でページをめくった。
村「ええ部屋やな」
私の実家はもうなかったし信五君と侯君の家族はそれぞれずいぶん前に大阪に戻ったので、せっかくだからいいところに泊まろうと侯君が旅館を予約してくれていた。車の信五君は少し遅れて私達に追いついた。
横「この辺、何もなかったんにこんなん出来てるなんて、驚きやなぁ」
田舎だし温泉はあったけど、旅行に来た人が泊れるような旅館なんてなかった。
「自然」が売りの部屋の窓からは、なるほど田んぼと川と遠くの方にまだ雪をかぶった山が見える。
田んぼと川がすぐそこだから、夜はきっとカエルと虫の声とか川の音を感じながら寝るんだろう。
横「俺バーベキューしたい」
村「あほちゃう、何ご飯やねん。一人でやれ、俺風呂入る」
「夜カエルの合唱大丈夫かなあ」
荷物を置きながら３人３様に喋っていたら、いつの間にか後ろに控えていた仲居さんに笑われてしまった。
「ご兄弟ですか？仲がよろしいですですねぇ。昼間は芋煮会ができる場所もご案内できますよ。もう2時間ほどで夕食をお持ちする時間になりますので今日はご容赦くださいませね。温泉はいつでもお入りいただけますので。夜は冷えますし窓を閉めていただければカエルの合唱は遠くなると思いますよ」
赤面しながら心付を渡して、後ろを振り向くと既に浴衣の2人。着替えはやっ。
村「せっかくやし3人で入る？」
キラッと光る八重歯と真っ赤になる白い肌。
「ご夫婦でどうぞ。散策してくる」
村「あんまり遠くまで行くなよ、迷子になんぞ」
なるかあほ。子供か。地元だし。
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きりん虫(プロフ) - かさねさん» かさねさん、お付き合い頂いてありがとうございます！憧れの作家さんからコメントを頂いてとっても励みになりました。また読んでいただけるようにがんばります。 (2019年4月1日 6時) (
レス) id: 04ee5be231 (このIDを非表示/違反報告)
かさね(プロフ) - ちょっと泣きそう‥。毎日の癒しでした、お疲れ様でした！ (2019年3月31日 22時) (レス) id: e9dff60579 (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - chiakiさん» chiakiさん、読んでいただいてありがとうございます！コメントとても嬉しいです。長くなった上グダグダしてしまい楽しんでいただけているのか不安になりながら更新していました。新しい話もあげてみましたので良ければよろしくおねがいします。 (2019年3月31日 7時) (レス) id: 04ee5be231 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki(プロフ) - はじめまして。最初から最後まで更新を毎日楽しみにしながら読ませて頂きました。日常に溢れかえる愛のようなものをひしひしと感じて、すばるお兄ちゃんからのお手紙にも泣きました…またどこかできりん虫さんのお話を歩けるのを楽しみにしています。 (2019年3月31日 6時) (レス) id: 358b411256 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きりん虫
| 作成日時：2019年3月29日 5時
