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９月の電車には、寒いほどの冷房が効いていた。
鈍行なら２時間、快速なら１時間。
地元に近づくにつれてどんどん深くなってく緑色と背丈が低くなっていく建物。久しぶりに見る景色。
風景がガラッと変わるからすごく離れた気になっていたけど、実は距離はそんなに離れていない。
車だったらもっと快適に迅速に行ける。
ただ、行く気にならなかっただけ。
お兄ちゃんも、誰もいないから。
冷房の効いた空気に思わず身震いすると、侯君が上着をそっとかけてくれた。
横「やっぱり車にすればよかったな」
苦笑いして首を横に振る。
侯君と信五君と3人で地元に帰ることに決まったのは1週間前。
2人の中学校の同窓会があるから一緒に行かないかと誘われた。
そこはもちろん私の母校でもあるわけだけど、私は同窓会には出たことがないし住処を変えてからは連絡さえ来ていない。
帰るのは１年ぶりだった。
１年前に帰った時だって、駅から直接家族の供養をお願いしているお寺に行ってそのまま駅に戻って終わり。
実家のあったところは今はもう更地になっている。１年の間に何か新しい建物でも建ったかもしれない。
私は電車に揺られながら、時間をかけてゆっくり準備をする。
なくした家族に会う準備。風景や気配や匂いにつられて思い出される記憶を受け止める準備。自分を保つ準備。
だから、車じゃなくていい。
仕事があって後で合流する信五君は車で来るから帰りは快適で迅速な車の旅だし。
電話が震えたので画面を確認して思わず苦笑する。信五君からだった。
侯君が怪訝な顔をしたので画面を見せた。
村≪白いの、電話忘れてったからはぐれんようにな≫
のメッセージと一緒に、テーブルの上にポツンと置かれた侯君の黒いスマホの画像。
はぐれんようにな、って何よ。子供か。地元だし。
横「忘れたのには気づいてたし」
侯君がちょっと拗ねた顔で言ったので、多分私達は同じ顔をしているかもしれないと思って笑ってしまった。
列車がトンネルに入って、ふと、窓に移った自分が見えた。
手元の小説に目線を移した綺麗な石像みたいな侯君の横で、私は見捨てられた子供みたいな顔をしていた。
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きりん虫(プロフ) - かさねさん» かさねさん、お付き合い頂いてありがとうございます！憧れの作家さんからコメントを頂いてとっても励みになりました。また読んでいただけるようにがんばります。 (2019年4月1日 6時) (
レス) id: 04ee5be231 (このIDを非表示/違反報告)
かさね(プロフ) - ちょっと泣きそう‥。毎日の癒しでした、お疲れ様でした！ (2019年3月31日 22時) (レス) id: e9dff60579 (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - chiakiさん» chiakiさん、読んでいただいてありがとうございます！コメントとても嬉しいです。長くなった上グダグダしてしまい楽しんでいただけているのか不安になりながら更新していました。新しい話もあげてみましたので良ければよろしくおねがいします。 (2019年3月31日 7時) (レス) id: 04ee5be231 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki(プロフ) - はじめまして。最初から最後まで更新を毎日楽しみにしながら読ませて頂きました。日常に溢れかえる愛のようなものをひしひしと感じて、すばるお兄ちゃんからのお手紙にも泣きました…またどこかできりん虫さんのお話を歩けるのを楽しみにしています。 (2019年3月31日 6時) (レス) id: 358b411256 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きりん虫
| 作成日時：2019年3月29日 5時
