コップの中のあらし（青）2

君の手が語ること　1． ページ8

◎章大side



僕はいま、我慢している。



Aちゃんの仕事が終わる時間にネイルサロンに呼ばれて、カヨちゃん(Aちゃんの叔母さんでネイルサロンの店長)に店の中に引っ張り込まれて

仕事着のままのAちゃんが手招きするのに吸い寄せられて、ようわからんうちに個室に連れていかれて

とんでもなく座り心地のいい一人掛けのソファに座らされた、と思ったら


おもむろに両手を取られていい塩梅のお湯の中にちゃぽん、と入れられて、 Aちゃんの好きなようにされている。


めっちゃ気持ちよくて、声が出そうなのを必死で我慢。いまここ。




個室は薄暗い間接照明でいい感じのゆるーい音楽がかかってて、アロマのいい匂いがするし

ちゃぷちゃぷいうやらかいお湯の中で温められた僕の手と指が、丹念に洗ったり揉んだりされりするだけでもやばいのに

片方ずつ、甘皮剥かれたりヤスリかけられたりしてピカピカにされていく僕の爪。



今月の休みは「ハンドケアの研修に行ってくる」と言ってずーっと会うのを断られてたから、多分間違いない。

僕はAちゃんのケアの練習台。

そう思っておとなしくソファに背中を預けた。





最近は昼休みもテキスト持ってきてご飯も忘れて勉強してるし、夜もずっと残業ばっかりで会う時間なんかなくて、休みの日は研修会。

だから今日の昼「夜、サロンに来て？」ってかわいくお願いされて、明日は定休日やしもしかしたらお泊りデートしてくれるんかなって期待してしっぽ振ってきたのになぁ。


彼女が僕の手を大事な宝物みたいにじっくり眺めて磨き上げることにおそろしく集中してるから、それをいいことに僕は至近距離でAちゃんをゆっくり観察する。




かわいいなぁ。


必死になっちゃって、僕がこんなに見てんのに全然こっち見ない。


Aちゃんの仕事ってお客さんとめっちゃ接近するんやなぁ。


個室やから外の音とか気配とかは遮断されてて、

彼女が態勢を変えた時の衣擦れの音とか息遣いとか、
うつむいてのぞくうなじとかがまあまあ生々しいし、


Aちゃんのいい匂いがして、ちょっと動いたら触れそうなほど近い。


まあ両手使えんから触れへんのやけど。






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