破れた傘にくちづけ-クジラとペンギン-（緑紫）

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ジャッキーが遠い昔のあの雨の日、どういうつもりでたつを拾ったんか、俺には多分一生わからんし


あの時も今も、俺が、俺らがどんだけ引き離そうとしても自然に引きあう2人をどうしていいんか今もわからない。


「お互いの為やから」って俺らに説得されて、ジャッキーもたつと接触するんを避けてたはずやのに

カレー屋を始めるにあたって大倉組のシマの店を借りることになったのは、俺らがカレーの匂いに辟易して文句を言ったからでジャッキーの意思ではない。




俺達があの時この海辺の家に住んでなかったら


たつが普通の家の親に愛された子やったら


ジャッキーが料理好きの吸血鬼やなかったら


たつがやくざになってなかったら


たつが溺れんかったら


ジャッキーが俺ら同様泳げない体だったら




命を掛けるほど深く交わったこの20年の一連の出来事が、偶然の積み重ねなんやとしたら


きっと、それはもう必然ですらないんやないか。








ガ「アーセナル、どこ行くん」

ア「ちょっと煙草」


珍しく病人に気を使ったんか外に出て行くアーセナルの後について、俺も外の空気を吸いに行く。

玄関先のアーチを抜けて道路に出ると、もう海が見える。

ジャッキーが回復するのを待っているうちに長引いていた梅雨は明けて、もうすぐ夏が来る気配がする。
この辺にもそろそろ海を目当てに人が集まってくるだろう。





ア「なあ、あれ」

アーセナルが指さした方を見ると、雨上がりのバス停のベンチに背の高い人影が見える。

俺を見て、はっとしてふらふら駆け寄ってくる男。



忠「エース」



タツ。

認識して近くに寄られた途端に、頭んなかにタツの膨大な思考が流れ込んでくる。

あいかわらず、死ぬほどうるさいやつ。とりあえず


エ「ジャッキーは中や」


顎をしゃくって玄関を示したら、タツは急いで俺の横をすり抜けようとして思いっきりよろけた。


まだ体治ってないくせに。


しょうがないから支えながら一緒に玄関に戻る。


エ「お前、ちょっとウルサイ」

忠(何も言うてへんしまだ痛くて腹から声出せん。ていうか横の死神みたいな人ダレ？？めっちゃこわい。もしかして吸血鬼？他にもいんの？なにここ吸血鬼の館？…)

エ「ウルサイ黙れ」



“ナンデ君”ここに在りやな。
やくざのくせにヘタレってなんやねん。




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