破れた傘にくちづけ-動物図鑑-

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日曜日、騒々しくやってきたお姉ちゃんは、一人ではなかった。

お兄ちゃんと、その彼女らしき女の人と3人。

一応念入りに掃除はしたけど、お兄ちゃんとお姉ちゃんは何やら目鼻をグズグズさせていつもなら機嫌が悪くなるところなのに、なぜか機嫌が良さそうだった。


お姉ちゃんの口から出たのはとんでもない話で。

兄が結婚する予定の婚約者が音楽を齧っているので父の作業部屋を使いたい。
一軒家をそのままにしておくのはもったいないし、あいている部屋で婚約者が音楽教室をやりたいから結婚したらここに住みたい。
母は仕事が落ち着かなくて帰国できる目途も立たないし、父の作業部屋も機材も役に立ててもらえるんならその方がいいんじゃないか、老後はマンションでも買って住むつもりだから家のことは兄妹で決めていい、と言っている。
家の権利を兄夫婦に譲る代わりに、姉はまとまったお金をもらうから、私にもその分を少し分ける。

だから、この家から出ていけ。


ペラペラと勝手なことを自分勝手に言い募る姉と、それに合わせて夢物語を語る兄とその婚約者。


ものすごく腹が立った。


3人の言い分にも、ここにいない母にも。

私はあなたたちの誰よりも、この家で長く過ごしているのに。誰よりも思い出を持っているのに。



すぐには決められないだろうから時間をあげる、と恩着せがましく言って、3人が帰った後。


私は無性に、エースに会いたくなった。

一人の家は慣れているはずなのに。

沈黙が、苦しい。

ソファの上にいたからって、別に何をしゃべるわけでもなかったし、空気みたいだったのに。



空気が無くなったから、苦しいのか。





その日の夜帰ってきたエースは、いつもとはあべこべに「ただいま」と言って私にいつもの挨拶をした。

薄い空気を補うようにぎゅうっと抱きついたら、エースはさりげなくスンスンと部屋のにおい嗅ぎながら不満そうに鼻を鳴らした。

いつも以上に近づいたエースからはアルコールと煙草と女性の香水、それと何か食べ物のにおいがする。


私も鼻を鳴らしたかもしれない。



エースはここでは、食べないし飲まない。

「おかえり」って言ってキスしてくれるエースからはいつも、家のにおいがしたのに。


―――今日は外のにおいがする。









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