桜の森の満開の下-赤紫- ページ16
桜の森の満開の下-赤紫-
“THE EIGHT”
今日は「closed」の札が掛けられて明かりがついていないそのbarには、吸血鬼が7人、住み込みで働いているらしい。
いい加減に慣れろ、いつまでも扉の向こうでうるさいねん、と噛みつきそうな顔のエースに言われたのに、私はいつも扉の前で躊躇する。
本能的な何かなのか、中にいる人たちが悪い人ではないのはわかっていても、私はいつも扉の前で一度立ち止まる。
中に入って扉を閉めたら、捕食されると思っているのか。
店員は全員イケメンで雰囲気もいい素敵な店なのにそれほどお客さんが入っていないのは、つまりそういう事なんじゃないかと思うんだけど。
「入んの入らんのどっち」
今日も入るのを躊躇していたら、急に後ろから声を掛けられて固まる。
街灯に照らされているはずの彼には影がなく、後ろに立たれた気配も感じられなかった。
「ジョニー」
高身長の眉目秀麗な男性。
一点、ソフトリーゼントっぽくまとめた頭の上に青いインコが一羽、首をかしげてとまっている事を除いては、見た目は完璧。
彼とインコとは前にガムに背中を押されて初めてこの店を訪れた時に、知り合いになっている。
ジョ「入るならはよ入って。重いねんコレ」
ジョニーの両手にはパンパンの買い物袋があって、慌てて扉を開けてあげると、ジョニーの頭の上にいたインコはおもむろに私の肩の上に移ってきた。
「くすぐったいよ、トッポ」
バサバサする羽が首に当たってくすぐったい。抗議したのにインコのトッポはわざとらしく私の首元をくちばしでつついた。
このインコはこの前会った時はちゃんと人間体だったのだけど、すごくシャイであいさつした以外は一言も喋らなかった。その後鳥になって見せてくれて、その愛らしい容姿に思わず「かわいい！」と叫んでしまったあと、インコのトッポは上機嫌で帰る時まで私の肩の上に乗っていた。
「荷物ってどれ？どこに行けばいいの？」
カウンターの向こうで冷蔵庫に買ったものをしまっているジョニーに声を掛ける。
ジョ「荷物はそこの机に乗ってるやつとコレ。追加分は俺が後で持ってくから、場所取り係の飲みもんだけ先に持ってって。場所はトッポが知ってる」
ぴぴ、と肩の上でトッポが鳴いた。
今日私は、吸血鬼たちの夜のお花見にお呼ばれしている。
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作者名：きりん虫
| 作成日時：2020年7月6日 21時
