破れた傘にくちづけ 2

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錦戸さんからはそれから何度か業務上の確認が来て、中途半端にしていた得意先への挨拶とか、引継ぎも兼ねた取材の同行とかをしているうちに友達みたいになった。


飲みたいときは「飲みに行かん？」と誘ってくれて、疲れていると「無理すんな」とかちょっとした言葉を掛けてくれたりおいしいものを奢ってくれたりする。

ただのイケメンじゃない、かゆいところに手が届くイケメンだ。


彼は社内で老若男女あらゆる人からモテていて、何でそんな人が私を気にかけてくれるのかは謎だったけど、私は部署が変わったばかりだったし、家に帰れば今まで一体どうやって過ごしていたのかと思うほど何も予定がなかったので、彼の存在はとてもありがたかった。


約束通りあのパティスリーにも連れて行ってくれた。

錦戸さんにあらためて紹介されたイケメンパティシエはマルさんという人で、彼の作るお菓子は確かにおいしかった。

私はもうグルメ担当ではないのにいつもの癖で「何かコツがあるんですか？」と聞いたら、彼は笑って「Aちゃんが元気になぁれ、っておまじないかけてるから」と言った。


距離が近いサービス満点のイケメン。

話し込んでいると急に近くに立っていたり勢い余って手を握ってきたりするのでびっくりさせられる。



丸「また来てね」

「はい、また来ます」



私達はなぜか握手をして店の前で別れの挨拶をした。

それは社交辞令とかではなくて、私は本当にまた来ようと思っている。



おいしいものは元気をくれるから。






復帰から1か月。

新しい部署の上司は私の体調を気にかけてくれて、しばらくは無理のない量の仕事を振ってくれていたので、私は毎日定時で帰宅していた。

本当のことを言うと、ちょっと物足りない。

いくら仕事に打ち込んでも、何か足りない気がしている。


今の部署の仕事は新しく知ることも多くて楽しかったし、仕事から帰れば病み上がりの体は確かに疲れていた。



でも、何かが足りない。








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