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隆「あかん、虫に刺されたかも」
不意にすぐ後ろから少年みたいな声がした。
隆平さんは「うぅっ」とか言いながら首を掻きむしっている。
心配して近づくと、すっと引き抜かれる右手。その掌には何かが握られていた。
ぱっと開かれた手のひらの上に、線香花火が2本。
隆「がんばってくれたAさんにも、星をプレゼント」
隆「どっちがええ?」
「じゃあ、こっち」
差し出された一本に、そっと火をつける。
隆平さんも残った一本に火をつけて、灯った光を並べるように近づけた。
彼はまた、あの顔をしている。
隆「もし、俺の方が長生きしたら」
隆「抱いてもいい?」
何が、正解だったのか。
やっぱり、みんなと一緒に泊まればよかったのか。
ボランティアを引き受けなければよかったのか。
彼を、見なければよかったのか。
彼の左手の薬指に光るものを、私はわざと見ないようにしていたのではなかったか。
逡巡しているうちに
魂が、落ちた。
丸「また、その目」
丸「どのみち、こうするしかなかったけど」
丸「その目で見られるたびに、俺がどんだけ我慢してたか、わかってんの?」
私は、彼の前で、いつもどんな顔をしていたのか。
彼に困った顔をさせていたのは、私か。
隆「わからせたげる」
彼は、さっと自分の魂を落として、私の手を取った。
私はその手を、離せなかった。
彼の左手に君臨する星からそっと目を離して、振り返って魂が落ちたあとを見る。
そこには黒い痕が確かに、残っていた。
車の中で合わせられた肌は、暖かかった。
車の外に見える夜景は、あんなに明るいのに
車の中は、暗くて、何も見えない。
ただ、お互いの息遣いと、体液の感触だけを頼りにつながる。
夜空の星や、街の夜景や、子供の涙や、彼の指輪。
無数の光を見た後なのに
目を閉じて、私のまぶたの裏に残ったのは、落ちていく線香花火の魂と、その黒い影の痕だけだった。
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きりん虫(プロフ) - 茅香さん» 茅香さんはじめまして。人間味のある橙さんが私のツボです。コメントありがとうございます。 (2020年4月18日 5時) (レス) id: 04ee5be231 (このIDを非表示/違反報告)
茅香(プロフ) - はじめまして。自分は黒担なのですが、きりん虫さんが描かれる狡いオレンジさんがとても好きです。 (2020年4月18日 1時) (レス) id: 79a5f5eb6c (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - ブルームーンさん» ブルームーンさん明けましておめでとうございます!どうも青さんは天からの使者になりがちですね。尊い´д` ;。今年もよろしくお願いします! (2020年1月4日 8時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - ニァさん» ニァさんはじめまして。コメントありがとうございます!自然と再生が裏テーマだったので季節描写が多かったのですが、楽しんで頂けたならよかったです。また更新中の作品に戻りますので遊びに来て下さいね!よろしくお願いします^ ^ (2020年1月4日 8時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
ブルームーン(プロフ) - 暖かい緑さんに包まれたくなります!そしてキツツキさん、彼は鳥さんになりがちですね♪幸せの青い鳥さんでしょうか(*´ω`*)ホワホワ (2020年1月4日 0時) (レス) id: 9f4337f44a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりん虫 | 作成日時:2019年12月21日 17時