渋谷部長 ページ45
渋谷部長
電車の窓に映った自分の顔があまりに無表情でびっくりした。
朝の満員電車は無心で通さなければとてもやり過ごせない。
ハイヒールのお姉さんによろけた拍子にヒールで思いっきり踏まれたり、目の前にあるおじさんのスーツの背中から漂う何とも言えない匂いにさらされたり、横に立っている大学生のカバンを抱える肘にぐいぐい押されたりするけど、賢者モードでじっと我慢。
少しはマシかと思って1ヶ月前から1本遅い電車に乗ってみたけれど、混み具合はたいして変わらなかった。
まるで修行。
でも電車の窓に映る顔はみんな同じだ。無心で我慢。感情のない仮面をかぶる。
私が通勤に使用している電車は、朝だけでなく夕方も夜も割と混んでいる。
座れればラッキー。
残業で帰宅時間がずれたその日、車内はまだ座席が空いていた。
埋まっている端ははじめから諦めて、ぽっかり空いた真ん中にそろそろと腰を下ろす。
座れるだけでも嬉しい。
でも嬉しかったのははじめだけで、その後私は緊張を強いられることになる。
私が座ってしばらくしてから同じ車両に乗ってきたのは、社内でも眼光鋭いことで有名な渋谷部長。
女の子みたいなきれいな顔立ちなのに、いつも不機嫌で言葉が少ない。
なのに仕事は迅速で大胆で誰も考えつかないようなアイデアを出してここぞという時に頼りになる。
その功績を認められて若くして昇進した渋谷部長は、社内の有名人だった。
彼は聞きしに勝る鋭い眼光でキョロキョロと周りを見渡した。
そして、私の方をキッとひと睨みして
まっすぐ私の隣の空席に、座った。
びっくりした。石になるかと思った。
渋谷部長は話題の人で、私はもちろん知っていたけれど、接点もないし多分部長の方は私を知らない、はず。
だから気付かないふりをしても、いいよね。
電車が動き始めると部長はイヤホンで音楽を聴き始めたけれど、隣の彼を意識して私の右半身は緊張で固まっていた。
そのうち、彼はゆらゆら、船を漕ぎ始めて、
なんと、私の右肩の上に、着岸した。
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きりん虫(プロフ) - ブルームーンさん» ほんとですか?ありがとうございます!ちょっとでも皆様の気分転換になっていれば幸いです。 (2020年3月30日 12時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
ブルームーン(プロフ) - オフィスレディ、可愛く描けてますよ!移行先では青さんのとオフィスラブが…更新楽しみです!! (2020年3月30日 6時) (レス) id: a475b78d7e (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - こあさん» こあさんコメントありがとうございます!キュンキュンして頂けてよかったです! (2020年3月23日 6時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
こあ(プロフ) - そんな村子さんが大好きです(違う) さりげなくサブキャラに落とされそうになるとは。恐るべし。もちろんキュンキュンも戴いて満腹です(^-^) (2020年3月23日 2時) (レス) id: 2691bf805d (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - 優貴さん» 優貴さんにキュンして頂けたら光栄です!疲れた時は糖分とって下さいね。ここは劇的な甘さでお送りします。 (2020年3月14日 17時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりん虫 | 作成日時:2019年6月30日 6時