5.知らなかった ページ5
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ここに引っ越してきた五年前の冬に
人生で初めての一目惚れってやつをした。
「お、おはようございます！」
「おはよ、三戸さん」
初めは朝の挨拶だけで心がいっぱい状態。
だけど月日は流れてその一目惚れ相手の大野さんとだんだんと距離が近付いていった。
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それから出会って半年が経つ頃には私は彼を「大ちゃん」と。
彼は私を「Aちゃん」と呼ぶ様にまでなった。
何が二人の距離を近くしたか分からない。
ただ、ここのアパートの住民はみんな仲がいいから理由とか要らないんだと思う。
思えばもうすぐ一年が経つ11月下旬、
仕事帰りに片手にビールを持ってふわふわに巻いた
髪の毛をサザエさんヘアにしてベランダに出る。
ベランダに出ると大ちゃんが先にお隣のベランダで一人晩酌。
初対面では流石にこのオフモードは見苦しいかと思ってのお団子だったけど、サザエさんが今じゃもうお馴染み。
「あ、サザエ」
「マスオさんそれは一番搾りなやつかしら？」
「ごめん、サザエ！奮発しちゃったんだよ！」
こうやってたまーに、他愛も無い会話をしながら笑って一緒に飲む。
この時間とこの空間が私にとっての癒し。
ゆるーく、時間が流れる。
「ねえ、Aちゃん」
「ん？」
「もうすぐ俺の誕生日」
「え！？」
「11月26日」
「明後日じゃない！」
うん、と頷く大ちゃん。
いやいや待って、そう言えば誕生日知らなかったんだ。
でもそう言えば桜庭さんも
「もうすぐご馳走の季節ねぇ」なんて言ってた。
風間くんは何か大きいラッピングに包まれたものをこの前買ってきてた。
佐々倉さんに至っては
「息子にプレゼントを買わんとな」って娘さんしか
居ないはずなのにそんな事言ってた。
全部大ちゃんの誕生日の為だ…
って気付くのが遅すぎた、私のバカ。
てか誕生日聞いておけば良かった！！
でももう今聞けるのはプレゼント何欲しいかくらい。
そこを今更聞いても遅くはないでしょう。
「何か欲しい物あったりする？」
「そう、それ！」
「何？」
「絶対Aちゃんしかくれねぇやつ」
私しかあげられないもの？
なんだろ…
ビールを見つめながら考えてみる。
「え、ビール？」
「それはかざまんに頼んだ」
あぁ、だから風間くんあんな大きいラッピングだったんだ。
ちょっと謎が解けた…ってそうじゃなくて！
「やっぱり分からないわマスオさん」
「俺ねサザエが欲しい」
「サザエ好きなんだ、美味しいよね」
「ちがぁーう！」
「え？」
「……が欲しい」
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作者名：きりりん
| 作成日時：2017年12月8日 9時
