39.ほしいもの ページ39
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それから日は淡々と流れていよいよ智の誕生日目前だという。
会社から帰ってきてサザエスタイルでベランダに行くと先に一本やっていたらしい。
「んふ。待ってた」
「お待たせ」
恋人になった今でもベランダで一緒に呑むのは変わらない。
このサザエスタイルだって安定。
智に彼女がこんなに可愛らしくなくて良いのか聞いたら「そこ含めて可愛いんだよ」って言われて昇天するかと思った。
「ねぇ智」
「ん？」
「誕生日何が欲しい？」
この会話この前もやった。
やったけど「なんもいらねぇや」って適当な返され方した。
なんだそれ！困っちゃうよ！すぐ誕生日なのに！
せめてアレは？恒例のアレは言わないの？
なんて思い始める始末。あれ聞いて死ぬほど悶えるのに。
そんな念のこもった目を察したのか智がふぅっと一息を吐いた。
「…Aが欲しい」
「うわぁあ…っ」
なんだうわぁあって。
自分の反応の恥ずかしさとスナイパーの恒例の言葉に顔を掌で隠しながら悶えてると智の「でもさ」という声。
「オイラだってそう言おうとしたけどAの身も心も食っちゃったしなぁ…」
「言い方…」
智の言い方が悪かったけど今は両思い。
付き合ってもいるし一夜も過ごした。
欲しいって言われたものをもう捧げてしまってた。
「だから今欲しいもんって言われるとな」
「他にないのか！」
「ねぇよ。ずっと欲しかったんは一つだ」
真剣な目。
やっぱスナイパー健在。思わず目をそらす。
だって異様にどきどきするから。
「お願いだから欲しいものなんとか絞り出してください…」
「え〜」
「うぅ…うーん」って唸り声が聞こえた。
多分考えてるであろう智。
しばらくして「あ！」ってひらめいたような声。
「これ！これ欲しい！」
これと指さしたのはまさかのまさか。
「え…え」
「んふ。今すぐっては言わねぇけどね」
「…」
「あくまでも予約。それくれる日はいつまでも待つから」
「冗談…？」
「えぇ…また疑われてんの嫌だよ俺」
智が私の薬指を握って優しく微笑む。
本当にどれだけ悶えさせれば気が済むの。
「これがいいの…？」
聞く声は恥ずかしいくらい震えていた。
智は愛しそうな瞳で私を捉えて、
「欲しがりさんだなぁ。Aが欲しいの」
そういって私にキスを落とした。
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作者名：きりりん
| 作成日時：2017年12月8日 9時
