【中原中也】美容オタクなので金がない【文スト】

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ところでこれを知った人間の9割が必ず聞くのが、『なぜ中原はAに部屋のスペアカードキーを渡しているのか』である。
　何も難しい話ではない。今日みたいに早朝や夜中にAが部屋に訪ねてきて『車出して』『ここ連れてって』と言うことがあまりにも多いので、俺が寝てる時は勝手に部屋に入ってから起こせと中原から渡されたものである。中原は稼ぎが良いけれど、Aがわざわざ人の部屋に忍び込んで金目のものを盗る人間でないことくらいは分かっている。何故って、彼女はそれに不自由しないくらいの労働量をきちんと調節しているから。いくら金欠だなんだと言っていても、Aがあの年齢にそぐわないほどの財産を持っていることも知っているし、何より彼女が人のものを盗んだり奪ったりすることをえらく嫌うこともよく知っている。信頼があるからこそカードキーを渡したのである。

　まあそんな厚意をAがどう思ったのかは知らないが、少なくともカードキーを渡されてからも何度も勝手に中原の部屋に入って車のキーを拝借して車も借りているし、ついでに冷蔵庫から貰い物のお菓子を頂戴していたりもする。車くらい部下に出してもらえという話だが、本人曰く『中原さんと歩いたり中原さんの車を借りるとレベルの低いナンパがなくなる』らしい。アシのみならず虫除けにまで使っているのである。まあ大学生ほどの若い女が1000万はくだらない高級車を乗り回していたら、普通の人間は怖さすら覚えるものなのであながち間違いではない。

　そんなこんなで今回も車のキーを借りたAは、駐車場で新車のランボルギーニを見つけてするりと乗り込んだ。Aはバカだがバイクも車も免許を持っているので、実は運転ができるのである。とは言え普段は部下が車を運転してくれるので、こうしてプライベートで乗る以外はハンドルを握らないが。
　よくそんな女に車貸せるな。

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