【中原中也】美容オタクなので金がない【文スト】

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「ごめんなさい、お待たせしてしまったみたい」

「！ いえ。僕も今来たばかりです」



　事前に車で迎えに行きますとの申し出を断り(未成年のくせにパパから買ってもらったベンツのSクラスがあるらしい)、Aは敢えて駅での待ち合わせを提案した。というのも、パパ活でよく居るのだ…車で迎えに来てそのままホテルに直行しようとする馬鹿たちが。流石にこっちは無抵抗な女の子なんかでは無くてマフィアの拷問班勤めなので、そんなジジイは車ごと“壊して”、財布を拝借して解散であるが。

　こんな紳士がそんな真似をするとは思っていないが、女は自分で身を守って当然、自分の身は自分で守れが尾崎からの教えである。未然に防げることは、どんなに小さいもしも確率でもゼロにしておきたいのがAの考えであった。



「この前みたいな深紅のドレスもお綺麗でしたけど、今日の服もとてもお似合いですね。印象がガラッと変わりました」

「まあ…ありがとうございます。パーティーの時は…ほら、周りが皆さん綺麗ですから。少しでも大人に見られたくて」



　うるせぇバカ私はとっくに美人で綺麗な大人の女やろがい───と口に出していえるはずもなく。そんな事しなくても十二分に美しいです浴びせられる賞賛の声に、Aは謙遜の色を滲ませて控えめに笑った。



「今日は、ありがとうございます。まさかお嬢さんからお誘いを頂けるとは思っていませんでした」

「あ…ごめんなさい。ご迷惑だったかしら」

「とんでもない。楽しみで、昨日の夜は眠れませんでした」

「マ。ふふ、喜ばせるのがお上手ですのね」

「世辞じゃありません、本当です」

「だったら今日はあまり疲れない場所が良いかもしれませんね」



　そう言って選んだのは映画。何ともまあ年齢相応の、まだ成熟しきっていない男女に相応しいデート場所である。これなら不必要に話す必要も無いし、終わったあとには必然的に感想を話し合えば良い。賢い判断である。

　───マァ、これもAは織り込み済みでの提案である訳だが。


「ああっ……やだ、恥ずかしいわ。あんまり見詰めないで」

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