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―
「― チャクロ、」
ふと格子越しに投げかけられる声に、チャクロが顔を向けると、
そこには自分達の兄貴分と言ってもいいほど、
チャクロもお世話になっている、マソオの姿があった。
「マソオさん?・・・ごはん?」
「んや、解放。― お前だけな」
「え、でも・・・」
オウニの方を戸惑いながら振り返るが、オウニは先ほどから変わらず、
こちらに背を向けたまま動かない。
「おい、行くぞ」と外へと促す言葉に、
オウニの存在を気にしながらも、チャクロは格子の外に出た。
「もういいの?」
体内送りだが、まだ2日しか経過していない。
もう少しの間、この体内にいるのだろうとばかり思っていた為、
この早い段階での赦免に、チャクロは不思議にマソオを見た。
「あぁ、お前がオウニに無理やり連れて行かれたのを見た奴がいてさ」
「・・・ぁ・・・(完全に無理やりってわけじゃなかったんだけど・・・)」
少し罪悪感を感じながらも、進んでいく足。
そろそろ外に出るのだろうか、その足元は少しずつ光で照らされ、
次第にその光が強くなる。
「とにかく、よかったな。お前いいタイミングで出られたぞ?」
「― え?」
心なしかマソオ自身も何か楽しみにしているのか、
少し弾んだ声にチャクロが前を向くと、ちょうど外に足を踏み出した瞬間だった。
そこには
「チャクロ〜!」
笑顔で手を振るサミと友達の姿が映る。
反対の手にあるバケットを見て、今日がやっと何の日か知ることになる。
「そうか・・・今日は・・・」
― 飛蝗現象の日なのだと ―
泥クジラ周囲の砂の海には、
“ホシボシバッタ”と呼ばれる、大柄なバッタが生息している。
彼らは巨大な群れを形成し、
泥クジラから出る廃棄物などを食べて暮らしている。
彼らの群れはその群れでの個体密度が上がると、
長期移動に適した姿へと、世代をかけて変化していく。
そして夜に光を発しながら、群れは大空へと大移動の為羽ばたく。
その光は思わず息を呑むほど美しい。
また外へと羽ばたいていく姿に、外への憧れを馳せる人も多い。
娯楽の少ない、この場所ではこうした自然現象は、
ささやかな楽しみだった。
外の世界、ほんの僅かの片鱗しか見てはいないが、
それでも彼らの羽ばたく美しい姿を思い浮かべ、
この機会にチャクロも僅かに胸が高鳴った。
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霧花(プロフ) - 美海-miuna-さん» 美海-miuna-様。再びコメント本当に嬉しいです!最近は更新できず、楽しみにして頂いてるのに、すみません(TT)ゆっくりでもちゃんと最後まで書こうと思ってるので、長い目で見守ってください!(^^)ここから物語がある意味始まるので、頑張ります! (2018年2月23日 17時) (レス) id: 7d4352a5a2 (このIDを非表示/違反報告)
美海-miuna- - 霧花さん» 再びコメント失礼します!更新楽しみにしてました!読んだ今、オウニがあぁぁああ!!という状態です笑読みながら涙してしまい、ますます今後の展開が気になります!! (2018年2月17日 13時) (レス) id: f365a2d487 (このIDを非表示/違反報告)
霧花(プロフ) - 美海-miuna-さん» 語り出したら止まらないです(笑)こうして、クジ砂という素晴らしい作品を通して、色々な方々と交流できて、本当に幸せです(*^^*)更新には波がありますが、今後も頑張ります! (2018年2月7日 0時) (レス) id: 7d4352a5a2 (このIDを非表示/違反報告)
霧花(プロフ) - 美海-miuna-さん» 美海-miuna-様。コメントありがとうございます!凄く嬉しいです(^^)やっと2人を会わせられました!長かったな、と私もしみじみ感じました(笑)美海-miuna-様は舞台クジ砂も好きなんですね!私も大好きです(*^^*)舞台、アニメ、漫画、全てのオウニが素敵過ぎて! (2018年2月7日 0時) (レス) id: 7d4352a5a2 (このIDを非表示/違反報告)
美海-miuna- - やっとオウニと主人公が関わるところが読めて嬉しいです!霧花さんの書くオウニもとってもかっこよくて、惚れてまうやろー!!って状態です(笑)この先どうなるのか楽しみにしています! (2018年2月6日 19時) (レス) id: f365a2d487 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:霧花 | 作成日時:2018年1月19日 17時