地味男と一週間の罰ゲーム２ (ページ26)

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「誰、"しんやくん"って」

「あーそうそう、信矢くんはね、デートしてる時に僕達の前で転んだ子！
すっごい目がクリクリで可愛くて、たくちゃんみたいな頭だった」

「へぇ」

「あとね、信矢くんが転んだ時にAが絆創膏出したの。かっこよかった～」

僕はたくちゃんにお土産話を沢山した。
Aがポケットティッシュくれたこととか、Aが僕のことを頭良い奴だと思ってたこととか。
純粋に楽しかったから、僕は夢中で話していた。

「……佑亮、恋してるみたい」

「え？」

夢中で話していた僕に、たくちゃんがそう言った。

「罰ゲーム始まる前の佑亮と全然違う。
俺の前でも本当の佑亮が出てくるの増えたし」

「えっ、そう？」

たくちゃんは黙って頷いた。

僕は確かにAのことは可愛いと思うし、名前を呼んでくれた時は嬉しかった。
素を出せる相手だとも思ってる。でも、手を繋ぐ時は緊張しちゃう。

……でも、これで恋って言えるのかな？
僕って、Aのこと好きなのかな？

…………。

「ええええ、わかんなぁぁぁい！」

「うるせぇ」

僕はなんだかモヤモヤしたまま、夕方までたくちゃんと過ごした。

たくちゃんと別れて住宅街をしばらく歩くとある、川を渡るための歩道橋の高欄にもたれて、本を読んでいた。

川の音とか、風とか、気持ちいい。落ち着く。
村田祐基は、語彙力は無いけど独特な世界に引き込まれる。
……8割意味わかんないけど。

本を読んでいたら、突然声をかけられた。

「佑亮」

ガラガラした声。
僕はその声の主を見て、頬が緩んだ。

「誰かと思った。声ガラガラだね」

大丈夫？と聞くと、Aはうん、と頷いて僕の隣に立った。

「なんでわざわざこんなところで本読んでるの？」

Aに聞かれて、僕は答える。

「……ここ、落ち着くんだ」

周りの音とか、雰囲気とか、色々。

「……確かに、落ち着くかも」

「まあ、この季節限定なんだけどね。
夏は暑いし、冬は北極」

笑いながらそう言う僕につられて、Aも笑顔を浮かべた。
そろそろ、夕飯の時間。

「……帰ろっか」

僕は本をリュックに入れて、Aに手を差し出した。

……あれ、僕何やってるんだろう。
自然に手が伸びて、Aが僕の手を握った。

手を繋いでることを意識すると、やっぱり緊張しちゃう。