まちがえた(アキ) ページ16
「19歳です」
瞬間、早川先輩が大きなため息をついた。
口の端から紫煙がふわりと溢れ出る。
「じゃあダメに決まってんだろ。あと煙草はやめておけ、骨が腐る」
「腐りませんよ、ちょっとくらいなら」
「お前に煙草は似合わねえよ。これでも舐めてろ」
先輩は何かを私に投げて寄こした。
両手でキャッチしてみると、それは小さな棒付きのキャンディだった。
「…………子ども扱いしないでくださいよ」
じろりと睨むと、先輩は少しだけ笑った。
柔らかくなった表情にどきりとしながら、私は続ける。
「似合わないって言いますけど、私、意外とサマになると思いませんか?」
「まだ言うか」
「言いますよ。私意外としつこいんですから。
あーあ、煙草が吸いたいなあ!」
嘘をついた。
本当は煙草なんて別に吸いたくなかったけれど、先輩とテンポよく会話が続いているのが嬉しくて、私は思い切り食い下がり続けた。
すると先輩は、呆れたようにまたため息をついたあとで、煙草の煙を吸い込んだ。
そして、私の目を上目遣いにじっと見つめてくる。
「えっ」
なんだろう。怒らせてしまったのだろうか。
咄嗟に謝罪の言葉が出そうになったところで、早川先輩が小さく口を開いた。
ふう、と私の顔に煙が吹きかけられる。
「うわっ!?」
煙草の煙と冷たい早川先輩の息が顔にかかり、私は驚いて思い切りのけぞった。
驚いた拍子に煙を吸い込んでしまい、ゴホゴホと咳き込む。
なんのご褒美だろう、なんて考えていると早川先輩が携帯灰皿を取り出した。短くなった煙草の火を押し付けて消すと、煙草を中にしまい込む。
「ほらな。臭ぇし煙たいし、そんないいモンじゃないだろ」
紫煙にあてられて、私の頭はぼうっとしていた。
こちらに煙を吹きかける早川先輩の表情が脳裏に焼き付いて離れない。
うるさかった心臓が、さらに早く大きく脈打っていた。
「おい、大丈夫か?」
固まったままの私を、早川先輩が心配そうに覗き込む。
突然のご褒美にちょっと感極まってるだけですから心配しないでください、なんて言えるはずもなく、私はただ早川先輩を見つめ返すことしかできなかった。
とにかく、先輩にはやく返事しなきゃ。
『いつもこんなの吸ってるんですか?』
よし、これでいこう。
軽く息を吸い込み、私は改めて早川先輩を見据えた。
「なんのご褒美ですか?」
「………………はぁ?」
目を丸くした先輩の手から、ぽとりと携帯灰皿が滑り落ちた。
*
リクエスト:さとる様
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ちえ - アキくんの夢もまだ少ないのでこれから楽しみに待ってます (2022年10月15日 23時) (レス) id: 0560ab194e (このIDを非表示/違反報告)
ゆり - チェンソの夢はまだまだ少ないので嬉しいです!とても面白かったです!キャラクターの思考や話し方なんかがとても自然で楽しく違和感無く読めました。次回を楽しみにしています。差し支えなければ、マキマの夢が読みたいです。女夢主であればどんな話でも嬉しいです。 (2021年7月8日 0時) (レス) id: 979541037a (このIDを非表示/違反報告)
肩サラダ(プロフ) - チェンソーマン大好きなのでこういう短編集がすごく嬉しいです、、!最高です!!リクエストをお願いしたいのですが、ビームくんで女主のお話を書いて欲しいです!お時間ある時で構いませんのでよろしくお願いします! (2021年2月11日 20時) (レス) id: dfa81ef2dc (このIDを非表示/違反報告)
切れ端(プロフ) - ドコサヘキサエン酸さん» コメントありがとうございます!もっと良いものが書けるように頑張りたいです;;本当そう思います!アニメ化がきっかけになって、もっと増えたらいいな…… (2021年1月10日 0時) (レス) id: f24ed74d9a (このIDを非表示/違反報告)
切れ端(プロフ) - あるみくさん» コメントありがとうございます!嬉しいです…!更新頑張ります! (2021年1月10日 0時) (レス) id: f24ed74d9a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:切れ端 | 作成日時:2020年4月20日 11時