静かな夜は ページ10
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帰宅した家の中はやけに静かで、誰もいないのかと自室に向かう。
Aの部屋とはベランダで繋がっており、ふと外をみると空を見上げているAがいた。
「今日は1日中ぼーっとしてるんじゃないですか?」
『…おかえりなさい』
ベランダに出て声をかけると、一度こちらを見て微笑んだが視線はまた空へと戻る。
また…
また今日も君は、泣きそうな顔で笑うんだな。
「どうして…」
『……え??』
頬に手を添えこちらに向けると、驚きにゆれた目に見つめられる。
それはやはりどこか儚げで、涙で潤んでいるのか硝子玉のような瞳は暗がりでもキラリと光っている。
組織の人間が…こんなに悲しそうな顔をするのか?
「君は…いったい……」
何を隠しているんだ?
『透の手……あったかいね…』
Aは目を閉じると、頬に触れた僕の手に擦り寄うように自らの手を重ねた。
『人の温もりに触れると安心するのって、どうしてなんだろ』
この手を離してしまうと、静かな夜に溶けて消えてしまいそうな彼女を、気がつけばそっと抱きしめていた。
組織の人間だとわかっている。それでも、人の温もりにすがりたいほどに僕は疲れていたのだろう。
そういうことにしておきたいと思った。
だって僕は、公安警察 降谷零なんだから。
腕の中から僕を見上げ、Aは小さく笑う。
『あなたほんとに…黒が似合わないわね』
そう言ってまた笑う顔は、先程の泣きそうな顔ではない。
どこか楽しそうな嬉しそうな、幼さを感じさせるその笑顔に僕は腕の力を少し強めた。
なぁ、君は…
Aは……
黒なんだよな?
それとも
僕と同じ、白なのか?
その答えを、どうすれば知ることができる?
どうすれば、その笑顔を引き出せる?
どうして僕は、こんな事を考えている?
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作者名:chi | 作成日時:2022年8月4日 10時