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勇太郎と国見とは、もうまったく口を聞かなくなった。
私が早い時間に出ているから、迎えに来ることをやめたのだろう。帰りだって、もう昇降口で待つのをやめた。
たまに廊下で見ては目が合わないうちに逸らしている。
「…ねぇ」
むくり、とゆっくり丸い頭が上がる。
寝ていたからか切れ目がさらに鋭くなっている。
「んだよ…」と掠れた声。
「影山、高校どこ行くの」
「…白鳥沢」
「え、推薦来たの?」
「来てねェ。けど、受けに行く」
「…あのね、白鳥沢ってめっっちゃくちゃ頭いいんだよ」
私の成績かつ私の頭がないと影山なんて倍率上げに行ってるだけだよ。
だけど宮下の言っていたことは当たっているようだ。
青葉城西には行かない…。あの影山が、また同じチームメンバーで一緒に戦うのは不可能だと考えたということ。
「影山の頭じゃ無理だよ」
「う、るせェな！」
「私立じゃなくて…公立だったら? もう決まってる?」
「あ? …まだ決めてねェけど、“烏野”は視野に入れてる」
「…烏野……」
あの、黒いジャージの…。
( うーん…? 中学校ですら強豪校しか覚えてないからな… )
影山がわざわざ名前を出したってことは相当な実力、なの…?
たしかに貫禄はあったけど、そんな風には見えなかった。
「…何でそこにしようと思ったの?」
「…。全国まで行った時の監督が復帰するらしい」
「……」
「そこでその監督に教わる」
…どうして、影山は、バレーを嫌いにならないんだろう。
バレーを一緒にやっていたおじいちゃんを亡くして、ずっとひとりでやってるみたいなバレーをやって。
結果、あの試合が起きたんだよ。
嫌いになる理由は揃ってるはず…なのに…。
「…」
「!? 急になんだよ、具合でも悪いのか?」
「…いや、」
力が抜けただけ。
…そっかぁ。
影山は、バレーを嫌いになるんじゃなくて、“自分がやっていた”バレーを変えに行くんだね。
あの試合に、辞める理由なんてひとつもない。
( …いいよ。もう。なんでも )
影山がそうしたいなら、そうすべきだ。
_ 怖かった。
誰よりもバレーボールに執着して、ボールに触れる時間が1番長かった影山のすべてが、あの一瞬で無駄になるんじゃないかって。
私は3年間、その一部をずっと見てきたから。
「…決めた。ありがとう、影山」
「は?」
「私も烏野に行くね」
まだ、見ていていたいって思ったから。
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作者名：かげやま
| 作成日時：2024年3月14日 13時
