【名探偵コナン】隠れてる子の話。IV

152. 俺の上司 ページ2

.




「あ、山田くーん。これお願いしていい?」

「…またですか」

「ごめんって。デスクワークは新人の基本なんだよぉ。頑張ろ！」

「頑張るの俺なんですけどね」


椿さんは警視庁に訪れる度に俺に仕事を回してきた。

一度にすごい量を置いていくので、俺はそろそろpとqの区別がつかなくなりそうだ。

そして大体、俺に仕事を回した後には諸伏さんと話している。
何でも 潜入捜査先が同じで、警察学校からの仲らしい。

警察庁の公安のエースと呼ばれるあの降谷零の直属の部下にして、俺の上司。
あの人自体優れてると思ったことは何度かあったが、どこか気が抜けているのであまり怖い印象はない。

( 女だからってのもあるのかねぇ… )

警察庁の公安に所属するなんて、よっぽどの頭脳と判断力、それに見合った運動能力もないとダメなのに、あの人にそれが備わったようには見えなかった。

ていうか絶対私情でも諸伏さんに話しかけてるっしょ。
顔赤いし。楽しそうだし、いつも諸伏さんの話してくるし。


____ でもそのくせして、


「こ、恋人役?」

「そう。私が基本リードするから合わせてくれればいいよ」

「わ、かりました」

「…先に謝っとくけど…何するか分からないからね」


ファーストだったらごめん、なんて言われても、俺にはそれを拒否する権利なんてないじゃないですか。

そう言うと、椿さんはそうだねーと笑った。


俺にとってはずっと椿さんは上司だったし、上司は椿さんだった。
間違えてタメ口で話しても怒ってこないし、そのせいで俺は礼儀という礼儀を少しだけ忘れた。

諸伏さんが死んだ時も、椿さんは俺の上司で。

痩せていく彼女の後ろをただ追いかけて、俺は何も出来なかった。
何かするのはいつも、椿さんの上司の降谷零。


「…椿さん、」

「ん?」

「……何で、公安辞めるんスか」

「…。まぁ、仕方ないよ」

「…俺の上司、椿さんスよね」

「…ううん。山田くんは、風見さんに渡すよ」


( …何で)

拳を固く握りしめる。


「私は自分のことで精一杯で、人を育てるなんて…難しくできなくてさ、」

「…椿さん、不器用ですもんね」

「失礼だなー。風見さんにそんな態度取っちゃダメだよ?」

「…とりませんよ」


俺の上司は、あんたしかいないんだから。


「…山田くん、死んじゃ嫌だよ」


( …俺は、)

俺は死ぬよりも、あんたがいない方が嫌だ。







.

153. 別人→←151. 椿さんという人

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す