【募集企画】東方幻想記録物語8巻 (ページ4)

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ホットチョコレートと、異変と。　神祇院凛花ページ4

「……ほぅ」

幻想郷の隅、日本庭園に囲まれた小さな庵の中で、少女は小さくあたたかな息を吐いた。
さらりと揺れるは白銀の髪。愛らしく細めるは純白の瞳。純白の肌は凹凸一つなく、絹の如く滑らかであった。そこにあるのは今まで生きてきた年数を感じさせない幼い顔つきと、幼子のようなあどけない微笑み。一介の女神・神祇院凛花は、ホットチョコレートの入ったマグカップを両手で持ちながら天を仰いだ。
―――さて、そろそろ頃合いですか。
思うと同時、脳内にホワイトノイズが走る。

『ちょっと、良いかしら？』

脳内に直接、艶やかな女性の声が流れ込んできた。凛花はマグカップを囲炉裏に被せた炬燵テーブルに乗せ、

「ええ、用件は勿論分かっているわ。気付かない訳が無いもの。仕事の時間、なのでしょう？―――紫さん」

『話が早くて助かるわ。人間の里の路地裏に、異変を延長させた元凶が居る。そいつの対処を依頼するわ』

―――「対処」。殺すな、という事か。
凛花は紫の言葉の意味を読む。凛花は異変解決を手伝う際、正義感のあまり相手を殺してしまう事がしばしばある。だから、なのだろう。殺しては困る程幻想郷に必要なのか、あるいは。
―――殺す事が、更なる事態の悪化を招くと？
いやはや、と凛花は目を細める。面倒な仕事を押し付けてくれたものだ。

「了解よ。すぐに終わらせるわ」

『ええ、お願い。頼りにしているわ』

―――何が頼りに、だ。使い捨てるの間違いだろう。
凛花は心中で述懐する。基本的に悪意を抱かない凛花だが、八雲紫は例外である。幻想郷の平和を希っていると宣うが、方法は悪人のそれだ。善人とは言い難い。
―――何かあれば、すぐに殺す。
凛花は傍にあった刀を握りしめる。律儀に左座右起を守り、立ち上がって歩き出す。
その表情から、あどけない微笑みは消えていた。そこにあるのは鉄面皮。氷の微笑みすら消失した、如何なる感情も宿さない真の無表情。

―――さて、仕事をするか。