【募集企画】東方幻想記録物語7巻

神殺しの槍と女神と人間　空夜 ページ41

―――そろそろ本気を出すべきか。
十六夜空夜は迷っていた。望山穂花との戦いは、言わば神殺しの戦いだ。穂花は特に強い女神である故に、手抜きでは苦戦すること請け合いだろう。だが、本気を出せば共闘している人間に精神汚染という形で飛び火する可能性が高い。科学・幻想両サイドの禁忌を使う空夜の能力はただでさえ危険度が高いのだ。
(いや、大丈夫だ。その為に空間操作を鍛えてきたんだから)
空夜は覚悟を決めた。昔、同じような状況で同じような選択をした事がある。その時は、空間操作がまだ不完全だった為に大規模な精神汚染が起こった。だが、空夜はもう同じ轍を踏まない。

「―――異変解決に動いている人間諸君！私の言葉を聞いて欲しい。私は今から、君達が発狂するレベルの禁忌魔術を使う。それを発動すれば、私は恐らく倒れるはずだ。だが、望山穂花には大打撃を確実に与えられる！だから君達には、私が倒れた後の仕上げを任せたい。頼んだよ、幻想郷の救済者達。ということで、全員全力で耳を塞げ！」

空夜の言葉に反応し、全員が耳を塞いだ。毒性のある詠唱は空間操作である程度は防げるが、それでも透過してしまう場合がある。その対策だ。空夜は大きく息を吸って、吐く。そして、空間を断絶させた。

「――――――――――」

魔法陣が展開される。そして何かの槍が空夜の右手に収まった。
空夜が宣ったのは、声ですらなかった。歌ですらなかった。音であった。
発動に必要なのは莫大な魔力と音の詠唱、そして精神防壁。術者の精神にすら侵食する、神様殺しの大魔術―――神様殺しの聖槍(ロンギヌス)。
本来ロンギヌスの槍は神の子を刺しただけの槍だったが、信者やサブカルチャーによる二次創作によって様々な後付け効果が生み出された。復活の力や世界を制する力とされることが多いが、今回の大魔術においては超越者の死と復活をテーマにしている。つまり、女神だろうが何だろうが致命傷を与えられるのだ。
無論完全に殺す訳ではない。復活がテーマにあるように、一度は臨死状態になるが、風前の灯火ながら復活はする。だから仕上げが必要なのだ。幸運にもメンバーの中には十字教に詳しい人間が居るようだし、安心できるだろう。

「じゃあ、やってやろうじゃないか。行くよ―――女神を殺してくれたまえよ。神様殺しの聖槍(ロンギヌス)」

瞬間、濃密な魔力が空間を満たした。空夜は聖槍を投擲し、見事に穂花に命中させる。穂花は余裕綽々な様子から一転、大きく目を見開く。空夜も気を失い、重力に引かれるまま落ちていった。

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