ありがとう ページ17
お店を出ると３月の夜はまだ肌寒くて、持っていたストールを巻いた。
空を見上げると冴え冴えとした細い三日月が煌めいていた。
「少し歩くか？」
「…大丈夫？」
「何が？」
「だって誰かに見られたら…」
「ばーか。俺達夫婦なんだから見られたって何も困んねーだろ」
「あ、そっか」
「ほら」
差し出された潤の手を取って歩き出す。
付き合ってた頃は人前でこんな事できなかったから、なんだか新鮮。
いい年して手を繋いでるなんて思われないかな？
いっそ腕を組むとかの方がいいのかな？
「なあ…今Aが考えてる事当ててやろうか？」
突然潤に言われて、ぼんやり自分の考えに入り込んでいた事に気付く。
「え？今考えてる事？…え？！ヤダ」
「ほんとAは、しょうもない事で悩むよな。
周りの事なんて気にすんな。意識してると余計変だぞ」
「結婚おめでとうございます」
他愛もない話をしながら歩いていると、向かいから来た二十代前半の女性に声をかけられた。
思わず立ち止まると、
「嵐の松本潤くんですよね？
私、潤くんのファンでニュース見た時はショックだったんですけど。
あの写真見て納得したって言うか…
潤くんのあの表情見たら何も言えなくなって。
今、二人が手繋いで歩いてるのみたら私まで嬉しくなって、思わず声かけちゃったんです。
プライベートな時にごめんなさい」
一気に捲し立てる女性に唖然としながらも、彼女の素直な気持ちが伝わってきて微笑ましく思えた。
「いや、ありがとう。
そう言ってもらえて俺達も嬉しいよ。な？」
潤が急に同意を求めてきた。
潤のファンに私が何か言ってもいいの？
戸惑いながらも私も素直に彼女に伝える。
「うん。私も嬉しいよ。ありがとう。
結婚しても潤は潤だから、これからも応援してね」
「勿論です！今のでもっと好きになっちゃいました」
潤と握手して、何故か私とも握手して興奮ぎみに帰って行く彼女を見送りながら、潤も私も満たされていた。
心配していた事は取り越し苦労に終わりそうだ。
身近な人達だけでなく潤のファンにも祝福されて、潤のした事は間違いじゃなかったんだ、
私、これからも潤とずっとずっと同じ道を歩いて行っていいんだ、
そう思えた。
潤も同じ気持ちを抱いたみたいで、あの写真撮影の時と同じ笑顔で私を見ていた。
松本潤という存在に、彼を形成した全ての人や事柄に、そして出会わせてくれた運命に、
ありがとう
と呟いた。
2016.11.23 完
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作者名：凪 x他1人 | 作成日時：2016年11月3日 0時
